賠償金の高額化が背景に……全国の自治体で広まる自転車保険加入の義務化
エコロジーで健康づくりにも役立つ移動手段として、近年ますます人気が高まっている自転車。
その一方で、年々社会問題化しているのが自転車による人身事故です。免許なしで乗れる手軽さ・便利さから事故のリスクも軽く考えられがちですが、被害の程度によっては高額な損害賠償金を支払わなくてはいけないケースもあります。
そんな万一の事故に備えて加入しておきたいのが自転車保険。自転車には自動車のような強制保険(自賠責保険)がないため任意加入が原則となりますが、最近は全国の自治体で自転車保険の加入を義務化する動きも広まっています。
そこで今回は、甘く見てはいけない自転車事故の多大なリスクと、保険加入の重要性について考えていきたいと思います。すでに加入を義務化している自治体も紹介しますので、お住まいの地域をぜひチェックしてみてください。
未成年者でも問われる自転車事故の多大な責任
自転車は道路交通法で車両の一種(軽車両)に分類されています。よって、交通違反を犯して他人を死傷させたり、他人の財物を破損させた場合、自転車利用者は刑事上の責任(重過失致死傷罪)と、民事上の賠償責任(被害者への損害賠償金支払い)を負わなければいけません。もちろん、この責任は未成年者であっても免れることはなく、裁判所から命じられた損害賠償金はその保護者が支払うことになります。
ここで注意したいのは、ケースによっては数千万円もの賠償責任が生じること。最近は自動車だけでなく、自転車に対しても重い責任が課せられるようになり、自転車事故の賠償金は年々高額化する傾向にあります。実際にこれまでの事例では1億円近い賠償金を命じる判決も下されています。
自転車による人身事故の高額賠償事例
では、実際に起きた自転車事故の高額賠償事例を見てみましょう。
【賠償額/9521万円】
帰宅途中に自転車で走行していた男子小学生が、歩道と車道の区別のない道路で歩行中の女性と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等で意識が戻らない状態となった(神戸地方裁判所/2013年7月4日判決)
【賠償額/9266万円】
自転車横断帯手前の歩道から、自転車で車道を斜めに横断してきた男子高校生が、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員と衝突。男性会社員に言語機能喪失等の重大な障害が残った(東京地方裁判所/2008年6月5日判決)
【賠償額/5438万円】
自転車に乗った男性が信号を無視して高速度で交差点に進入し、青信号で横断歩道を横断中の女性と衝突。女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡した(東京地方裁判所/2007年4月11日判決)
さすがに、ここまで高額な賠償金をサッと支払える人は少ないでしょう。借金をして支払うか、数十年にわたって分割して支払うか、財産を処分して支払うか……。いずれにしても、その経済的・精神的な負担は非常に重く、自分や家族、被害者の人生さえ狂わせることになりかねません。
自転車の4割以上が無保険で走っている!?
どれほど注意していても、いつ起きるかわからない自転車事故。日ごろから安全運転を十分心がける(子どもにも指導する)ことはもちろんですが、自分や家族のためにも、またケガを負わせてしまった被害者のためにも、自転車保険には必ず加入すること。自転車に乗るなら、これはマストといえるでしょう。
とはいっても、自転車保険の加入率はまだまだ低く、その重要性が認識されていないのが現状のようです。
警視庁の調査によると、2017年に全国で発生した自転車の対人事故のうち、加害者側の自転車保険加入率は約60%。ただし、これは事故を起こした人からの集計値なので、実際の自転車利用者全体の加入率はもっと低いと見られています。
自転車の少なくとも4割以上が、何の補償もない無保険状態で街を走っていると考えると、あまりにも無防備で怖いと思うのは筆者だけではないでしょう。自動車だったら考えられないことです。
自転車保険の加入を義務化している自治体
こうした事態を重く見て、兵庫県では「被害者の保護」と「加害者の経済的負担軽減」という観点から、2015年4月より全国で初めて自転車保険の加入を義務づける条例を施行。その後、兵庫県に続いて加入を推奨する動きが全国に広がり、2018年7月現在、以下の自治体で自転車保険の加入が「義務化」または「努力義務化」されています(図表参照)。
今後、自転車保険加入を義務化する自治体は増えていくと見られますが、現在のところ自転車保険は自賠責のような強制保険ではないため、義務化している自治体でも未加入者への罰則は設けていません。
しかし、罰則や義務化の有無に関わらず、まず自主的に加入することが重要なのは言うまでもありません。自転車を利用しているのに、まだ保険に入っていないという方は、次項目の基本ポイントを参考に、ぜひ早めの検討・加入をおすすめします。
知っておきたい自転車保険の基本ポイント
【自転車事故を補償する保険は2タイプ】
(1)自分や家族が他人にケガをさせたり財物を壊したりして、損害賠償責任が生じた場合に備える「個人賠償責任保険」
(2)自分がケガをした場合に備える「障害保険」
対人・対物の高額賠償金に備えて(1)の個人賠償責任保険には必ず入っておきましょう。最近は(1)と(2)の両保険をパックにした商品や、示談サービス・自転車ロードサービスが付いた商品など、各保険会社から多様なタイプの自転車保険が登場しています。
【保険金の年額や最高の補償額は?】
タイプによって保険金や補償額は多少異なりますが、おおむね年額3000~6000円の保険金で、最高1億円前後の個人賠償責任補償が付いた商品が主流となっています。年間数千円程度の負担で、高額な補償をカバーしてくれるのは心強いですよね。
【クレジットカードや他保険の特約でもカバー可能】
自転車保険にあらためて加入しなくても、日常の損害事故を補償するクレジットカードの付帯保険をはじめ、すでに加入している自動車保険や火災保険の個人賠償・傷害補償特約に加入することでカバーできる場合もあります。まずは、利用しているカードや加入保険の契約内容を確認してみてください。
こうしたオプション特約は、単独で自転車保険に加入するより割安なのが魅力ですが、示談・ロードサービスなどが付いていない(自転車事故の補償に特化していない)ことが多いため、自転車を利用する機会の多い方は単独で加入したほうがより安心でしょう。
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。