サッカー・ロシアワールドカップ。その“熱量”と“経済効果”は比例している!?
2018年6月14日、サッカー・ロシアワールドカップが開幕しました。
このスポーツイベントは言わずと知れた4年に一度開催される、世界中を熱狂させる国際的なビッグイベントですが、「4年に一度開催されるスポーツのビッグイベント」といえば、そう、オリンピックが思い浮かびますね。
しかしその“熱狂ぶり”から見れば、サッカー・ワールドカップのほうがはるかに高いようなのですが、実際のところ、サッカーというスポーツに対する“熱量”と“経済効果”は比例しているのでしょうか?
── 今回は、過去のビッグイベントで動いたお金をもとに、ロシアワールドカップの経済効果について考察します。
オリンピックをはるかに凌ぐ、注目度ナンバー1のイベント
まず、サッカー・ワールドカップがどれほどの規模のイベントかを前回、2014年のブラジルワールドカップのデータから整理してみましょう。
【2014年ブラジルワールドカップ】
・サッカー1種目
・32カ国出場
・観客動員数342万9000人
・テレビ視聴者数10億人(決勝戦)
あのスーパーボウルでさえ、テレビ視聴者数が1億2000万人に満たないにもかかわらず、サッカー・ワールドカップの決勝戦1試合のテレビ視聴者数は全世界で10億人……。この数字から、その規模感や熱量が推測できますし、いかに世界中の人々が関心を持っているかが容易にわかります。
これに対して、オリンピックはどうでしょうか。直近のリオデジャネイロオリンピックのデータをひも解いてみましょう。
【2016年リオデジャネイロオリンピック】
・28競技306種目
・207カ国出場
・大会期間中、ブラジル国内から76万人、外国から41万人の合計117万人がリオデジャネイロを訪問
・テレビ視聴者数36億人(期間中)
こちらも同様に、サッカー1種目かつ、32カ国しか出場していないスポーツイベントであるにもかかわらず、306種目かつ、207カ国が出場するオリンピックをはるかにしのぐ規模で世界の人々が注目・熱中していることがわかります。
ワールドカップ開催に伴う経済効果とは
そもそもワールドカップの経済効果とは、以下のようなことが考えられます。
①競技場や交通網など、インフラ整備にともなう雇用の創出
ワールドカップの開催が決まれば、スタジアムの建設やそれに伴う道路や鉄道などの整備が行われるため、莫大な予算が計上されるとともに多くの雇用も創出されます。
②海外・国内からの観光客の増加
ワールドカップが開催されれば、試合を見るために多くの人が開催国を訪れます。その場合の交通費、宿泊費、飲食費などがこれに該当します。特に海外からの観光客が増えることで、多くの外貨を稼ぐことができます。
③企業のスポンサー料
ワールドカップには、グローバルスポーツ・ブランドの広告が不可欠です。当然ながらイベントが大きくなればなるほど、スポンサー料も高騰しますが、スタジアムの広告看板、テレビのCMなどさまざまなシーンで、ビッグブランドが競うようにスポンサー広告を露出します。
④チケットや関連グッズなどの売り上げ
ワールドカップが開催されれば、チケットはもちろん公式グッズなどの売り上げが、大会実行委員会に入ります。また、非公認のさまざまな関連グッズも作られ、発売されます。これらによって地域経済もまわるわけです。世界中から観光客が集まれば、それらの売り上げも莫大な額になっていきます。
⑤大会前の投資でGDP(国内総生産)が上昇
ワールドカップの開催は、何年も前から準備されます。その過程で、いろいろな企業が大会開催を目指して多くの投資をします。これによってGDPが押し上げられていくと言われています。
これらの経済効果によって、国内経済が上向きになると予想されているわけです。
ロシアワールドカップの経済効果は、3兆円規模!?
では、今回のロシアワールドカップは、どれほどの経済効果が見込まれているのでしょうか。
大会組織委員会は、ロシア国内の経済効果が、2013年〜23年で少なくとも260億ドル(約2兆8400億円)、最大で308億ドル(約3兆3800億円)にのぼると試算した報告書を発表しています。その主な要因には、観光客増加と大規模建設への投資が挙げられています。
一方で、大会はロシア国内の11都市12会場で試合が行われ、観戦チケットは240万枚以上を販売。その過半数はアメリカ、南米、中国などの国外で購入されていると言われています。開催国にとっては、経済的に恵まれていない地方都市のインフラが整備されるとともに、海外からも多くのサポーターが訪問することによって大きな経済効果が見込まれているわけです。
これに対して大会総経費は、110億ドル(約1兆2000億円)と見積もられています。この70%は政府や地方の予算で賄われたとされ、GDPの1%に相当する額の押し上げ効果が見込まれているのです。しかしながら、ロシアの実質成長率は17年に1.5%、18年の1〜3月で1.3%。開催にあたって目立った効果は見られていない……という見方が、今大会の経済効果の現実とされているのです。
経済効果は限定的で、地方都市に恩恵!?
アメリカの格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、ワールドカップがロシアに与える影響は「非常に限定的」としています。これはなぜかというと、経済効果が3兆円ほどと見込まれている大会に対して、ロシアの経済規模は全体で1兆3000億ドル(約142兆円)。実はこの比較から、読みとして「経済的なインパクトをほとんど与えないだろう」とされているのです。
ただし、開催都市「カリーニングラード」「モルドビア」などは、もともと税収の少ない地方都市。しかし巨大インフラ整備等から、地方都市にとっての恩恵(観光利益)が見込まれているとされていますが、それでも大会期間はわずか1カ月ほど。ここでも大方の見方として「継続的利益をもたらすには至らないだろう」とされています。
課題は、限定的経済効果を永続的好景気につなげること
2014年のブラジルワールドカップ 、2016年のリオデジャネイロオリンピック開催時も、両者での経済効果は630億ドル(約7兆円)とされ、同時に300万人以上の雇用が創出されると見込まれていました。しかし実際は一部への利権集中、一次雇用に限定されたことで、経済回復の起爆剤とはならなかったようです。逆に、多額の税金が投入されたことに対する大規模反対デモが行われたことも記憶に新しいところでしょう。
結局、ワールドカップなどの世界的スポーツイベントを開催しても、その経済効果は「限定的」に終わり、永続的な好景気をもたらすことはなかなか難しそうです。
── いま日本は、2019年のラグビーワールドカップ 、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてさまざまな準備がなされ、巨額の投資がなされています。しかし、世界的規模のビッグイベントをもとにその数値を見ていくと、限定的な経済効果をいかに長期的経済回復につなげていくか……という問題が浮き彫りになってきます。これは同時に今後の日本が直面するであろう、大きな課題であることは間違いないでしょう。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、エンタメ系など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車などなど。新潟県長岡市在住。