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住民税312億円が流出!?ふるさと納税で悲鳴を上げる東京23区《Part.2》

【転載元】
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ふるさと納税で他の自治体へ寄付する住民が増え、2018年度の税収減が約312億円に及ぶと見られている東京都23特別区。

前回の《Part.1》では、年を追って税の流失が拡大し、深刻な財政状況に追い込まれる東京23区の現状について見てきました。今回の《Part.2》では、税制度の見直しを求める特別区長会の方策や、さまざまな切り口で対策に乗り出した各区の動きを追いながら、ふるさと納税の今後のあり方について考えていきたいと思います。

制度改正を国に求め、緊急声明を発表した特別区長会

ふるさと納税による23特別区の税収減が、昨年度(2017年度)より約80億円減の約312億円に達する見通しを受け、東京23区の区長らでつくる特別区長会は、政府が進める都市と地方の税源偏在是正策に反対する緊急声明を発表しました。

今回発表された声明では、「自治体間に不要な対立を生む制度は認められない」と強調した上で、高齢化対策や子育て支援、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへの対応などを見据え、「大都会の特別区といっても財源に余裕があるわけではない」と反論。23特別区には税収減に対する国の補助がない点なども指摘し(23区以外の自治体には減収分の75%が地方交付税で補てんされる)、地域間の税収格差は地方交付税で調整されるべきと訴えています。

さらに特別区長会では、減収がここまで拡大するような制度設計には明らかに不備があるとして、ふるさと納税の上限額引き下げなどを求める見直し案を作成。2018年夏までに制度改正案をまとめ、総務相に見直しを要請する方針を示しています。

チラシなどで区民に税流失の現状を伝える啓発活動も

東京23区の中で最も税収が減っている世田谷区(2017年度・31億円減)では、2017年2月に「ふるさと納税対策本部」を設置。区の税収か激減している現状や、区民も世田谷区にふるさと納税できることを啓発するパンフレットを作成し、7月には区長みずからが街頭に立って配布しました。

同じく、税収減が拡大する杉並区(2017年度・14億円減)でも、2017年11月から「ふるさと納税で住民税が流出しています」と題したチラシを配布しています。チラシは2万5000部印刷し、地域イベントや回覧板で配布したほか、区内7ヵ所の地域センターにも設置。住民税の大幅な減収によって区の行政サービスが低下し、学校・保育園・清掃・道路などのインフラに破たんをもたらす可能性があるとイラストで説明しています。同区の担当者によると、チラシを見た区民から「ふるさと納税でここまで税収が減るとは知らなかった」「深刻な現状を知って驚いた」といった声が多く寄せられているそうです。

収益を狙って「返礼品競争」に参戦する動きも

ただ、現状では制度が大きく見直される見通しはなく、地元特産品が少ない東京などの大都市圏では寄付が集まりにくい状況が続いています。そうした中、東京23区の多くの自治体は、高級な地方特産品を売りにした返礼品競争に批判的でしたが、あえてその競争に乗り込む動きも出てきています。

たとえば、葛飾区は2018年7月から、人気キャラクター「モンチッチ」の限定ぬいぐるみ(寄付額1万円~)や「東京三味線」(寄付額2万円~)など、地場産業の生産品を返礼品として用意。さらに、100万円以上の寄付者には「江戸木彫刻大黒様」「東京手描友禅」といった高額返礼品を贈るなど、区の特色・魅力を発信しながら収益を狙う戦略を打ち出しています。

また、すでに100種類以上の返礼品を用意している中野区は、交流のある地方自治体の特産品を多数扱っており、なかでも「山梨県甲州市のウイスキー3本セット」(寄付額1万円~)が人気だそうです。これも地元特産品が少ない東京ならではのアイデア策といえるでしょう。

税の本質に立ち戻る、社会貢献型のふるさと納税

一方で、特定のテーマやプロジェクトへの支援を募る、社会貢献型のふるさと納税を目指す動きも広まっています。社会貢献型は一般的なふるさと納税とは異なり、「返礼品がない」「寄付者が使用用途を選択できる」という点が大きな特徴です。

たとえば、世田谷区はテーマ型のふるさと納税として、地元の東急電鉄・世田谷線をピックアップ。集めた資金は展示車両の塗装費用に使われるほか、写真展やイベント開催費用といった沿線活性化に充てられます。また、お金の使い道を透明化するシステムとして、世田谷区の7つの基金(子ども・福祉・環境など)から税の使い道を選択できる寄付制度を導入し、寄付文化の醸成に向けた取り組みを進めています。

その他、文京区では2017年7月から「こども宅食」をテーマにしたふるさと納税をスタートさせ、テレビのニュースなどでも話題となりました。これは、ひとり親世帯や就学援助を受ける世帯の子どもに食品を届けるプロジェクトで、寄付額は開始から1ヵ月あまりで目標の2000万円を達成。その後も寄付は増え続け、現在は8000万円を超える額に達しているそうです。文京区の成沢広修区長は「多くの方に問題を認識してもらい、感謝としか言いようがない。これを機に、税の本質に立ち戻る社会貢献型のふるさと納税が、都市部を中心に広がるのではないか」と期待を寄せています。

ふるさと納税の本来の趣旨について考える

返礼品がもらえて税の控除も受けられる寄付者、地域外からの収入が得られる地方自治体ともに、ウィン・ウィンの関係をもたらすふるさと納税は、ある意味で画期的な制度といえるのかもしれません。しかし、その陰では東京23区のように「割を食う」自治体があることも事実なのです。そして、割を食った分を埋めるだけの財源がなければ、行政サービスの低下といった形で住民にツケが回ってくる……その点は十分承知しておくべきでしょう。

ふるさと納税の本来の趣旨は、「納税者が税の使われ方に意識的になること」「納税者が支援したい自治体を選択できること」「自治体が取り組みを全国に発信できること」に加え、それが「見返りのない寄付」によって行われることです。こうした点から見ていくと、都市部で広がりつつある社会貢献型こそ、ふるさと納税のあり方として望ましいといえるのかもしれません。納税者みずからがお金の使い道を選択し、身銭を切って活動を支援することで、税金がいかに使われるべきかを考えるきっかけにもなるはずです。

もちろん、東京23区や大都市、各地方の自治体それぞれの立場によって、ふるさと納税に対するスタンスや考え方はさまざまですし、都会と地方では抱える問題も異なるでしょう。いずれにせよ、本来の税の意味に乗っ取った仕組みづくりは、将来的に避けて通れない重要課題であることは間違いありません。そして、私たち納税者一人ひとりも税の本質という視点から、ふるさと納税について改めて考える時期に来ているのではないでしょうか。

※参考/総務省HP、特別区長会HP、杉並区HP、朝日新聞、日本経済新聞、キャリコネニュース

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫  
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。

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