【日本】制限再び、狂う回復シナリオ[経済](2021/07/22)
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、東南アジアで行動制限を再び強化する動きが相次いでいる。域内各国で経済活動が大幅に規制され、内需が落ち込み、国際的なサプライチェーン(調達・供給網)への支障も出始めた。コロナ禍からの経済回復には、さらに時間がかかりそうだ。
ベトナム保健省機関紙によれば、韓国のサムスン電子は先週、ホーチミン市にある16工場のうち、感染者が確認された3工場の操業を停止した。
ホーチミン市でナイキやアディダスなどの運動靴を製造する台湾の宝成工業は14日から10日間にわたり、生産を停止している。当局が操業の条件とした、労働者の行動範囲を限定するための宿泊先を確保できなかったためだ。宝成のベトナム法人は、5万人以上を雇用する。
ナイキのサプライヤーでは、韓国系チャンシン・ベトナムも生産停止が報じられている。米調査会社S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスは19日のレポートで、「ナイキのサプライチェーンの混乱が悪化する恐れがある」と指摘した。
マレーシアの主力である電気・電子産業でも、コロナ禍の影響は長引きそうだ。調査会社エバーストリーム・アナリティクスは14日に発表した報告書で、同国での行動制限が半導体や電子機器などの供給や納期に与える影響が「向こう数カ月は続く」と予測した。
■「ウィズコロナ」揺らぐ
「慈善団体が配給する食料や、田舎から送ってもらった野菜を食べている」――。ホーチミン市で配車サービス「グラブ」の運転手として働く男性に、厳格な行動制限がのしかかる。同市では6月20日から配車サービスも含む公共交通機関が停止された。男性の家庭では、妻が手作りの菓子をネットで販売して家計を助けている。
ホーチミン市では今月に入り、事実上のロックダウン(都市封鎖)が敷かれ、スーパーでの食料品の調達も一時困難になった。ロックダウンの対象は19日、南部全域に拡大した。
シンガポールでは、22日から店内飲食を禁止する。同国政府は12日に、店内での会食の人数上限を2人から5人に緩和。月末にはさらなる制限緩和に踏み込む予定だったが、感染拡大を受けて19日に2人に戻した直後だった。グループでの行動の人数も5人から2人に上限を引き下げる。漁港やカラオケ店(KTV、いわゆるキャバクラ)で相次ぎ発生したクラスター(感染者集団)が方針転換を余儀なくさせた。
連日1万人前後の新規感染者が出ているタイでは、首都圏などでの行動制限が強化されている。政府は夜間の外出禁止に加え、日中の不要不急の外出も控えるよう求めた。バンコクでは、感染拡大を抑えられない政府に抗議するデモが発生している。
タイは南部プーケット県などで7月、ワクチン接種を完了した外国人旅行者を隔離なしで受け入れる制度の運用を始めた。コロナ禍が直撃した観光業の救済が狙いだが、感染拡大により、水を差される恐れもある。
欧州連合(EU)は15日、感染を抑制できている国・地域のリストからタイを除外した。今後は、タイからの入国の可否を見直すEU加盟国が出てくる可能性がある。タイのリスト除外により、プーケットなどからEUへ戻る際に制限を受けることになりかねないとの懸念も出ている。
大手格付け会社の米S&Pグローバル・レーティングは15日、2021年のインドネシアの国内総生産(GDP)成長率の予想を従来の4.4%から3.4%に引き下げた。ワクチン接種の遅れで感染の抑制に手間取り、ロックダウンが長期化するリスクがあると指摘した。
■景気回復は来年に
ニッセイ基礎研究所の斉藤誠・准主任研究員は、感染拡大が東南アジア主要国に与える影響について「7~9月期については経済へのダメージは確実に出てくる。国によってはマイナス成長になる恐れもある」と指摘した。
同氏は、景気回復のカギを握るのは感染状況とワクチンの接種状況とみる。「欧米の例をみると、少なくとも1回の接種を受けた人の割合が4割くらいになれば新規感染者が減少に転じる。主要国ではベトナム以外は年内に達成できるペースだ」と予測。ベトナムについても、試験段階の国産ワクチンの供給が始まれば、接種が一気に加速するという。来年にかけて2回接種の割合も増えて主要国で感染の収束傾向が強まれば行動制限が緩和され、年後半には経済は安定した回復軌道に乗るとの見立てを示した。