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【ベトナム】コロナで窮地、宅配で道開く[サービス](2021/04/22)

ベトナムの外食業界で独自の宅配サービスを確立しようと事業拡大に挑む若い日本人起業家がいる。「Capichi(キャピチー、本社・東京)」を経営する森大樹さん(23)だ。当初は動画で飲食店を紹介するアプリプラットフォーム事業を目指したが、開業後に新型コロナウイルスによる苦難に飲み込まれた。しかし諦めなかった。森さんは自前の出前サービスを開発し、宅配事業に転戦。多言語対応などで差別化し、口コミなどで利用者は増え、成長への手応えをつかみつつある。【大坪若葉】

森さんはベトナムで独自の宅配サービスを開発した。コロナ禍の苦難に遭いながらも経営者としての成長を続ける=ホーチミン市

森さんはベトナムで独自の宅配サービスを開発した。コロナ禍の苦難に遭いながらも経営者としての成長を続ける=ホーチミン市

180センチ以上ある身長。「この間、バイクで街中を走っていたときに事故に遭い、骨折しました」。さわやかに笑った。

ベトナムとの出会いは2017年、神戸大学を休学し、ハノイにあるIT企業でインターンシップ(職業研修)を始めたことだった。「アルバイト先で、同僚のベトナム人と仲良くなり、東南アジアに行く機会があるなら、彼らの生まれ故郷を見てみたかった」と振り返る。当初は1年の予定だったが、経済成長が期待されるベトナムで自らサービスを開発し、事業に挑戦してみたくなった。「やりたい」と思う気持ちが膨らみ「卒業まで待てなかった」という。

そこで設立したのが飲食店の動画ブログサイトなどを展開するキャピチーだ。19年7月にまず東京都千代田区に会社を設立し、20年3月にベトナム事業の拠点となるキャピチー・ベトナムをハノイに設置した。

■飲食店と出会う機会を

ベトナムで暮らす外国人にとって、ローカルの飲食店やバーに足を踏み入れるハードルは高い。写真だけでは伝えにくい店の雰囲気を動画でユーザーに送り、「飲食店と出会う機会」を提供したいというのが、インターンシップ中から温めていた構想だった。

インスタグラムなど既存の会員制交流サイト(SNS)では飲食店の場所が分からないことが多いため、動画と地図を連携させて来店を促す。収入の柱は広告で、飲食店には自ら営業に回った。そのころは新型コロナの影も見えておらず、動画サービスを主力事業に進めていく計画だった。

■コロナで飲食店閉店

キャピチーのハノイオフィスの様子。森さんはベトナム語を駆使し、スタッフとの交流を大事にする(森さん提供)

キャピチーのハノイオフィスの様子。森さんはベトナム語を駆使し、スタッフとの交流を大事にする(森さん提供)

困難は突然訪れた。ベトナムでは20年のテト(旧正月)休暇が明けた頃から新型コロナの流行が始まり、3月下旬から店内での飲食が制限された。キャピチーの動画サービスの利用者は減少し、自ら開拓した顧客の店舗も次々閉店した。投資家などから苦労して集めた資金は、目に見えて減り、「夜も眠れなかった」と森さんは当時の状況を振り返る。

苦難はそれだけではなかった。必死に経営する中でコミュニケーションが疎遠になったベトナム人の社員が突然退職の意向を示すこともあった。苦労を共にした同僚の離脱宣言に慌てたが、経営者として貴重な教訓になったという。その後、インターン中に身につけたベトナム語を駆使しながら、食事をともにするなど交流を深め、指示を待つだけだったスタッフも、当事者意識を持って、サービス改善の提案をすることが増えるようになった。

■3日で完成させた起死回生策

コロナの収束が見えず不安な状況が続く中、考え出した起死回生策は、宅配事業への転戦だった。「3日間で出前サービスを作る」――。森さんは、仲間に発破をかけた。4月の社会隔離政策が始まる直前、一刻の猶予も許されない、まさに背水の陣だ。飲食店では、外国人による電話での注文や住所をベトナム人スタッフが聞き間違えるトラブルも多く、出前サービスのみとなる飲食店の支援を目指した。

3日で完成させたサービスは、その後改良を重ね、英語や日本語、中国語、韓国語といった多言語対応にし、日本食や韓国料理など幅広いジャンルを扱ったことで、口コミや在越ブロガーによって徐々に評判が広がった。現在、キャピチーはハノイとホーチミンの二大都市に拠点を構えている。首都ハノイでは200店舗、ホーチミン市では100店舗ほどの飲食店が掲載され、今年4月には出前サービスが独立した専用アプリの運用も始めた。

キャピチーでは、既存のサービスでは扱っていない中高価格帯や外資系の店舗を中心に取り扱う

キャピチーでは、既存のサービスでは扱っていない中高価格帯や外資系の店舗を中心に取り扱う

同国では既に、「ナウ(Now)」や「グラブフード」、韓国系の「ベミン(Baemin)」といった出前アプリがあり、競争は激しい。森さんは「キャピチーは他のサービスからは注文できない中高価格帯の店舗や外資系の店舗を中心に扱っており、既存のアプリとは顧客ダーゲットが異なる」と差別化に自信をみせる。

今後は南部ビンズオン省や中部ダナン市、インドネシアなどにサービス範囲を広げることを検討している。

「今は需要が大きい出前サービスに注力しているが、コロナ収束後には動画事業でも雪辱を果たしたい」。開業当初の構想もまだ捨てていない。森さんはコロナ禍という危機の中で、経営者としての手腕に磨きを掛けている。

<会社概要>

Capichi(キャピチー):

2019年7月、東京で創業。20年3月にベトナムのハノイに現地法人を設立した。ハノイ市とホーチミン市で飲食店情報のVlogサービスやデリバリーサービスを展開する。従業員は約35人。

森 大樹(もり・たいき)1997年生まれ。2017年に在学する神戸大学を休学し、ベトナムのIT企業でインターンシップを経験。19年にキャピチーを創業し、最高経営責任者(CEO)を務める。

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