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【ベトナム】「第2波」直撃、死者5人に[社会](2020/08/03)

新型コロナウイルス感染症の第2波が、ベトナムを襲っている。ベトナムでは7月25日まで約100日間にわたって市中感染ゼロが続いていたが、中部ダナン市で感染者が報告された。それ以後は隣接するクアンナム省と合わせて5人の死者が出るなど、感染が急速に広がっている。2日時点でも感染源(F0)が特定できていないなど不安要素も多く、国内の脆弱(ぜいじゃく)な医療体制を直撃する懸念も大きい。

7月下旬に中部ダナン市で市中感染が報告されて以来、同市の街中は閑散としている=8月1日

7月下旬に中部ダナン市で市中感染が報告されて以来、同市の街中は閑散としている=8月1日

ベトナムでは7月31日午前5時半ごろ、国内428人目の新型コロナウイルスの感染者とされていたベトナム人男性(70)が死亡した。中部クアンナム省ホイアン市在住で、ダナン市内の病院で感染したとみられる。国内初の感染者の死亡事例となったが、保健省は、男性は複数の病気を抱え、主な死因は心不全だったと説明している。その後、8月2日午後5時までに合計5人の死亡が確認されている。地元紙によると、さらに16人が重症化しているという。

ベトナムでは7月25日にダナン市で新規感染者が見つかり、流行が再発。保健省の医師は「高齢者への新規感染が多く、以前と比べて状況は深刻だ」と話している。保健省のデータでは、同31日午後4時40分時点で同日の新規感染者数は45人。累計では感染者509人、死者1人となった。さらに、8月2日午後7時までに620人に達している。新規の感染者には、7月17日にロシアからの便で到着し、そのまま隔離されたケースも含まれる。累計の感染者620人のうち、回復は373人、治療中の患者は242人となった。

ダナン市を震源とする市中感染は増え続けており、2日午後5時時点で治療中の患者212人中144人の患者がこれに分類されている。地元紙の集計では地域別の市中感染者はダナン市が104人(うち3人が死亡)で最も多く、クアンナム省が26人(うち2人が死亡)、ハノイが2人、ホーチミン市が8人などとなっている。中部高原ラムドン省在住の日本人が日本に帰国した際の検査で陽性だとわかり、本人とともに省内の接触者を隔離していることも報道されている。

■「第1波」ウイルスよりも感染スピード速い

4月に社会隔離措置を全国で解除し、本格的に経済回復に向かいつつあったベトナムを襲った第2波に対し、官民共に警戒感が高まる。特に今回では「F0」と言われる感染源が特定できていないことも不安の一因となっている。北部に工場を置く日系メーカーの幹部は「前回よりも事態は深刻で、工場とオフィスでの対応を徹底する」と話す。

ダナン市では7月30日から飲食店の営業が停止。クアンナム省ホイアン市では同31日から厳格な社会隔離措置を実施している。ホーチミン市人民委員会は同30日、通達文書2869号(2869/UBND―VX)を発出。公共の場でのマスク着用などを要請したほか、不要不急のイベントの一時的な取りやめ、学校と病院を除く公共の場に30人以上集まることを避けるよう求めた。また、バーやディスコの営業は同31日から停止。会議や打ち合わせについては、オンラインを使用することを推奨する。

ラッフルズ・メディカル・グループの総合診療医、中島敏彦氏(ホーチミン市勤務)は前回と第2波の違いについてNNAに「前回は健康な外国帰りのベトナム人、もしくは海外からの渡航者が中心だったこともあり、死者が出なかった」とし、「今回は高齢者や合併症がある人が多く感染しており、予後や致死率がかなり変わるのではないか」と説明する。世界保健機関(WHO)などによると、今回の新型コロナウイルスは前回のものと毒性は同じ水準である一方、拡散のスピードが速い。

今後の対応について中島氏は「過去数カ月で感染防御に対する新しい知見や治療法が見つかったわけではないので、基本的には第1波のときと同様の対策が取られることになる」との見通しを示す。前回と同様、今回も入国者の隔離や国際便の停止、濃厚接触者・感染者の徹底的な追跡と隔離などが柱となる。ただ、感染源(F0)が判明しておらず、今後にどの程度感染が広がるかによって対策が変わってくるとみられる。「全体の把握をするため、韓国で実施されたような、大規模な検査のローラー作戦がベトナムでも実行される可能性もある」(中島氏)

中島氏が懸念するのは、ベトナムでの医療崩壊という。現状ではウイルスに対する明確な特効薬やワクチンはない。ベトナムの医療が脆弱であることを考えると、感染拡大がコントロールできなくなれば、国内の医療体制が簡単に崩壊することもあり得る。各国の経緯を見ると、医療崩壊は致死率が上昇する要因となる。

■備えとして国際的な医療保険を

現地の生活者が気をつける点として、中島氏は「質の悪い情報に踊らされないこと」を挙げ、「大使館や領事館からの情報をしっかりフォローすることや、ベトナム政府の指示に従うことが大事」という。第1波では政府の指示に従わず、労働許可証を没収されたケースもあった。企業としての対策については、医療関連のコンサルティングなどを手がける日系のクローバー・プラス(http://cloverplus.com.vn/)で中島氏が産業医として勤務しており、相談に乗ることが可能という。

また、国際的な医療保険に加入しておくことも重要だ。ベトナムで外国人が新型コロナに罹患(りかん)した場合の治療費は850~1,900米ドル(約9万~20万円)かかるとみられ、最も重症化したケースでは最低でも15万米ドル以上かかった。中島氏は「ここ数カ月、日系企業は経済的なダメージを回避するため、医療保険を不十分で安いものに切り替える動きがある」と指摘。「社員を海外に送り出す以上は、健康面も考えるべきだ」との見解を示した。

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