【韓国】正恩氏重体説、宮本教授「信頼性に欠ける」[政治](2020/04/23)
米CNNテレビは20日、米情報当局者の話として「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が手術を受け、重体に陥っている」と伝えた。事実ならば、朝鮮半島情勢に大きな変化が生じ、在韓日系企業のビジネス環境にも影響が及ぶ可能性がある。北朝鮮問題に詳しい聖学院大学政治経済学部の宮本悟教授に「重体説」の真偽について聞いた。
――正恩氏に重体説が出ている。
極めて信頼性に欠ける報道だ。韓国の情報機関の国家情報院がメディアに提供した情報がきっかけとなった可能性も考えられるが、国家情報院が拾ってくる情報は玉石混交だ。信頼に足る情報であれば、真っ先に韓国国会の外交安保委員会で取り上げられているはずだ。
――健康不安説は以前からあった。
その多くは正恩氏の体重が急増したことを根拠としているようだが、祖父の故金日成主席は正恩氏以上の巨体だったこともあるが、80歳過ぎまで生きた。正恩氏はまだ若い。健康が深刻な状態だと断定しない方がいい。
――北朝鮮専門サイトのデイリーNKは20日に、北朝鮮内部の消息筋の話として「正恩氏が12日に、平安北道にある金一族の専用病院で心臓血管手術を受けた」と伝えた。
緊急でもない限り、北朝鮮の医師が正恩氏の体にメスを入れるのは難しいだろう。もしその手術の結果、正恩氏が重体に陥ったのならば、その医師は今、極めて厳しい環境に置かれているはずだ。
気がかりなのは、正恩氏の手術が必要な場合は外国から医師を呼ぶのが通例だが、今はコロナ対策で呼べない状況である点だ。
――11日の朝鮮労働党政治局会議への出席が、北朝鮮メディアが報じた正恩氏の最後の動静だ。正恩氏が10日以上も表舞台から姿を消した理由は。
北朝鮮が新型コロナ対策として全ての主要行事の開催を中断しているためだろう。北朝鮮では過去にも、国家の最高指導者が1カ月も姿を見せないことは頻繁にあった。
――緊急時には妹で党第1副部長の金与正(キム・ヨジョン)氏に権力委譲されるとの見方がある。
与正氏は11日の朝鮮労働党政治局会議で政治局員候補委員に返り咲いたが、投票権もない候補委員を正恩氏に次ぐ「事実上のナンバー2」と見るには無理がある。
正恩氏に何かあったとしても、候補委員の与正氏があとを継ぐ必然性もない。与正氏は正恩氏の秘書的な役割を果たしているだけかもしれない。事態をしばらく見守る必要があるだろう。(聞き手=坂部哲生)
<プロフィル>
宮本悟(みやもと・さとる)
大阪府生まれ。政治学者。聖学院大学政治経済学部教授。同志社大学法学部卒業。ソウル大学大学院政治学研究科修士課程修了後、政治学修士取得。神戸大学大学院法学研究科博士後期課程を修了し、博士号を取得した。著書に「北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか? 政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援」(潮書房光人社)などがある。