【ミャンマー】「中国マスク外交」の前線に[政治](2020/04/23)
新型コロナウイルスの感染が拡大しているミャンマーに対し、中国政府が支援の手を差し伸べている。8日には、ぜい弱な医療システムを補完するため、専門家チームを送り込んだ。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の重要拠点と位置付けられるミャンマーは、「コロナ制圧」を内外にアピールする医療援助外交の前線にもなりつつある。
中国では習近平国家主席が3月10日、新型コロナが最初に発生したとされる湖北省武漢市に入り、事態が収束に向かっていると表明した。以後も新規感染者の減少が続き、4月8日には武漢市の封鎖を解除。「一帯一路」で関係を深めるアジアの新興国などへ「マスク外交」とも称される医療援助を積極展開している。
在ミャンマー中国大使館の公式フェイスブックによると、ミャンマーには3月26日から本格的な支援を開始。医療従事者向け個人防護服(PPE)5,000着や、医療用を含むマスク20万枚以上が航空貨物で到着し、ミャンマー国営紙が中国大使とミャンマー保健・スポーツ省高官が参加した贈呈式のもようを報じた。
30日には、中国電子商取引(EC)最大手の阿里巴巴集団(浙江省杭州市、アリババグループ)の基金が、新型コロナの検査キットなどを寄贈。医療専門家チームは4月8日、国境を接する雲南省からミャンマーに入った。12人のメンバーが15日間滞在し、ミャンマー側に感染防止や治療の経験を伝えるという。
中国はインドと中国の間に位置するミャンマーを「一帯一路」の要衝として重視。習主席は1月、今年最初の外遊先にミャンマーを選び、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と会談。「一帯一路」に沿う「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」で、深海港や鉄道の建設などを具体的に推進することを確認している。
■ネット上での批判も
ミャンマーの新型コロナウイルス感染者は、4月22日午前までで121人。まだ拡大への初期段階にあるが、十分に医療体制が整っていないため、重症化した患者の治療や、紛争地帯の難民キャンプを含む感染防止に不安を抱えている。
「資金や医療技術は喉から手が出るほど欲しい」(地元メディア記者)が、国民には中国企業の利益が大きいとされる「一帯一路」構想への不信感や、習慣や文化が相いれないことによる歴史的な嫌悪感もある。
地元メディアによると、ミャンマーのキリスト教宗教指導者、チャールズ・マウン・ボー枢機卿は3月上旬、「ウイルスが発生した中国は全世界に謝罪し、補償を行うべきだ」と発言。中国大使館が医療専門家チームの到着を公表したフェイスブックにも、歓迎ばかりではなく「(チーム構成員は)首都ネピドー以外へ動くな」「寄付された物資は中国製だから気をつけろ」と批判的な投稿が見られる。
中国はミャンマーにとって最大の貿易相手国で、経済的な影響も大きい。しかし、国際的シンクタンク「インターナショナル・クライシス・グループ(ICG)」は3月末に報告書を出し、「コロナ後」はCMECが停滞すると予測。リチャード・ホーセイ・アドバイザーは「収束後は、危機の後始末に優先して取り組むことになり、従来のインフラ整備計画の実行を急ぐ余裕はない」とみる。
■世界に支援求める
ミャンマー政府は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を最小限に食い止めるため、全世界の先進国や国際機関に支援を求めている。20日には、世界銀行が集中治療室(ICU)の拡充などを含む医療支援のため、5,000万米ドル(約53億6,700万円)の緊急融資を発表した。
日本は、国際協力機構(JICA)を通じ、現場の人材への技術指導を行うほか、新型コロナウイルスの感染が疑われる患者の検体の運び方やPCR検査の方法を学ぶ、医療関係者用の動画を作成した。また、これまでに無償資金協力で進めてきた大型病院の整備を継続している。
アウン・サン・スー・チー氏は14日に開かれた、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)の首脳らによるテレビ会議で、日本が治験を進める治療薬「アビガン」の無償提供に関心を示したとされている。