「あずきバー」はなぜ固い? こだわりと新商品を生む『アスリート経営』の極意
文化放送・The News Masters TOKYOのマスターズインタビュー。
今回のインタビューは、「あずきバー」でお馴染み、井村屋グループ会長の浅田剛夫さん。
2003年に井村屋製菓社長、2013年から井村屋グループの会長を務めている。
その浅田さんにThe News Masters TOKYOのパーソナリティ・タケ小山が話を聞いた。
収録も中盤に差し掛かり、小休止。あずきバーを頬張るタケと浅田さん。
76歳ながら、難なくあずきバーをかじる浅田さんに驚くタケ。そこから話は再開された。
あずきにこだわる理由
タケ:
「あずきバー」、固いですね。
浅田:
固いのは添加物を使ってないからです。1本あたり、理論上はあずき100粒。
これだけ粒がぎっしりというのは、他に例がないです。
看板商品のあずきバーから、さらに他の商品にも話は展開する。
タケ:
他にも、スポーツようかんというのがあります。これは誰がどういう発想で作ったのでしょう?
浅田:
開発マンで『将来のあんこは私に任せろ』というあんこ大好き人間がいまして...。
きっかけはこうだ。元々、贈答品が多かったようかん。
まず災害時の備品用として「えいようかん」を作った井村屋の開発マンだったが、作っているうちに、スポーツをやる人に早くエネルギーを吸収できるようかんを作ろうということで、アイディアとして出てきたそうだ。
チューブ式なのでランニングしながらでも食べられるし、ゴルフ界にも愛用者は多いという。
『贈答用から栄養食』への転換を図ったのだ。
また、今年から井村さんは「アスリート経営」を打ちだしている。
アスリートが、筋肉を鍛えて脂肪を取るのになぞらえ、企業として商品を開発しコストを下げている。さらに「体幹を鍛える」が如く、現在の井村屋は企業としての体の芯になるものを鍛えている。
井村屋は、ようかんから始まった会社なので、あずきから離れられないのが特徴。だが、新しい付加価値や新商品を作ることにも余念がない。
創業者の井村二郎氏は「既知のノウハウと未知のノウハウで、新しい付加価値を作るのがイノベーションに繋がる。そういうことが新商品開発に大事だし、全く未知の物だけで作るのは不可能だ」と言っていたそうで、浅田さんの脳裏には今もこの言葉が浮かぶのだと我々に教えてくれた。
商品開発に必要なこと
2003年、当時の井村屋製菓の社長に就任した浅田さんは、企業内の状況分析をしていて、あることに気付いた。
浅田:
私が社長に着任したのが2003年。その時、状況分析をすると、あずきバーはもったいないことになっていたんです。
なんと、夏にあずきバーが必要な分、作れないことが分かった。需要に追い付けていなかったというのだ。
これまで、夏の需要期に合わせて、春先から作る方法で挑んでいたが、それでは機械損失が多いことも分かった。
そこで、思い切って、新しい生産ラインを導入したところ、効率よく生産できるようになり、生産量も増えたのだ。
潤沢に供給できるようになったこと、さらに7月1日をあずきバーの日としてPRしたことなどで、一層世に広まった。
「商品開発は、そのもののスペックと、量産化する設備をどうするかというのが非常に重要なんです。井村屋の肉まんとあんまんも同じです」
たくさんアイディアはあるが、設備として導入し、供給ができないと商品は沈んでしまうとも説く浅田さん。
技術革新が進み、我々消費者に新たな商品が届くことに期待したい。
浅田会長が大切にしている言葉
おばあちゃん子だった浅田さん。特に古物商をやっていた祖母に教わった言葉はたくさんあるという。
『細かく仕分けることで儲けが出る。おおざっぱな仕事をするな』
小さいことを細かく分けることで利益が生まれる。祖母は"軍艦ばあさん"と呼ばれており、一見鉄の塊でしかない軍艦から真鍮や銅など希少金属を取り出して利益を得ていた。何もしなければ鉄クズだが、キレイに分別することで、利益が出るということだ。
『お金は使うことで回ってくる』
お金を使わないと、所持金は減らないが新しい利益を作ることにはつながらない。あずきバーの設備投資と同じで、お金を使って回すことで利益(チャンス)になって戻ってくる。
『人生は悠々として急げ』
小説家の開高健さんなどの言葉。矛盾しているようだが、両方とも大事だということを示唆している。心はゆっくりとしながら知識を学び、事に当たっては機を見て敏だと浅田さんは考えている。
『人生は悠々として急げ』。終始、まさにこれを体現したかのような語り口で自身の経営手法・哲学を語ってくれた浅田さん。
和菓子屋さんがスタートだっただけに、昔からの製法・ルールを順守するのかと思いきや、機を見て敏のあずきバーの設備投資や「えいようかん」「スポーツようかん」などの新商品開発など攻めの姿勢を絶やさない。
それでいて、あずきバーを難なく齧るパワフルさ。日本のあんこは今後、どのような進化を遂げるのか?
井村屋はその一役を確実に担っており、進化を実現させた暁に、我々をさらに満足させてくれることだろう。