急成長でクレーム増加…「10分1000円」QBハウスの知られざる苦悩
バンカーが理美容業界を選んだ理由
学生時代には海外を放浪していた北野社長。
いろいろな国を見てまわったが、水一つとっても日本とはまるで違った。海外の国に刺激を受けることもあったが、日本の素晴らしさを再発見したのだそうだ。
北野:
その中で、将来は日本の当たり前に良いものを海外の人たちに届けたいと思うようになったんです。そのためには自分で事業を興すしかないと考えました。
タケ:
ジャパンクオリティを提供するのに銀行に?
当時の北野青年は数字に物凄く弱かった反面、「苦手なものを克服すれば、強くなれる」とも思っていたため、就職活動では、ありとあらゆる銀行へチャレンジしたのだ。
「社会に出て、10年くらいは同じ会社にいないと本質は見えてこない」と父から教えられていた北野社長であったが、そこに転機が訪れる。
入行から10年程の月日が流れたころ、勤め先の銀行が経営破たん。当時の取引先を見ると、憂き目にあう会社もある中で、厳しい環境ながら残っている会社もあった。
その共通点は、「社会の何らかの問題を解決している会社」。
また行員時代には、職業柄いろんな会社の話を聞く中で、こんなことにも気付いた。
「髪の毛はどこの国に行っても伸びる。しかも、不景気でも関係ない」
その不景気でも関係ない理美容業界の中でも、QBハウスは10分1000円で自分が今まで行った中で一番優れていると衝撃を受けた。
その後、縁あって出会ったキュービーネットの創業者・小西氏の「北野君、このビジネスには終わりがなくて、国境はない」の言葉にも深く共感。
北野:
それでは、頑張ってくださいと言ったら、"いやいや君もやるんだよ"と言われ、気が付いたら、この会社に入っていました。
急成長から生まれた歪み
創業者の言葉に感化され、気づいたらキュービーネットに入社していた北野社長。入社当時、会社を取り巻く環境も今とは異なるものだったのだそうだ。
タケ:
社長が入ったときと今の違いは?
北野:
入った時は国内に75店舗出しており、本社の人数も20人程度。毎月常に店を出していくという状況でした。
会社も急成長し、お店にはとてつもない勢いでお客が来ていた。現場の技術力には自信もあったが、時折現場に行くとその歪みも目の当たりにしたという。
北野:
自分達は店をつくって"はい、よろしく"ですが、現場はお客様一人ひとりに満足してもらい、また次の来店につなげていかないといけないのです。
後者の方が大変だと感じた北野社長。急成長からくる歪みも当然生まれた。
お客様からのクレーム、それも「スタイリストの当たり外れが大きい」というクレームもたくさん届いた。
当時は、スタイリスト1人一日当たり60人ほど散髪していた。朝の体力があるときは調子がいいが、夕方のビジネスマンでごった返す時間になると、集中力も続かない。
都内の繁盛店は常に混んでおり、そこにはベテランの人を付けるが、手薄になる時間帯・エリアがあった時にそこにもドッとお客が来る可能性もある。
そうしたときのお客さんの個別対応は大変難しく、さらにそれまで「1000円だからしょうがない」と許してもらっていたところが、会社の規模とともに期待も膨らんでいき、お客からのオーダーも細かくなっていく。
そこにも応えなければならない現場は、徐々に疲弊していった。
タケ:
対策は打たれたんでしょうか?
北野:
その対策として、切り手のトレーニングはもちろん、出店も抑えました。
そうは言っても、まったく出店しないのは出店の話がこなくなるので、バランスは考えつつ事業は行った。
そこで従業員を緩めない限り、現場も苦しい上に、クオリティの面でも、お客に迷惑をかけることになるという理由から、2009年頃を境に出店の数は半分に減らした。従業員も「自分の力で現場で鍛える」から「ゆとりを持った状態で研修・教育」を受けさせる形にシフトしていく。
技術と接客への飽くなき追求
以前は、接客すらも無駄とそぎ落としていたと振り返る北野社長だが、より高みを目指すため、そこにもメスを入れた。接客はお客の満足度調査を行い、ちょっとした喜びを紹介していった。
技術の面では、社内でカットコンテストを行った。だが、最初はベテランのスタイリスト勢から「俺の技術を誰が正しく評価できるんだ?」という思いがあったようで、誰も乗ってくれなかったという。しかし、回数を重ねるごとに、状況は変化した。
コンテストの表彰者は全国予選を勝ち上がってきたスタイリストから選ばれる。これは、仲間から選ばれるということでもある。
若い人を中心にカットコンテストで称えられるスタイリストたち、そこから連覇する人も出てくるようになるとベテランのスタイリストも黙ってはいられない。彼・彼女らも刺激され参加するようになり、コンテストのレベルもグッと上がった。
もっともその中でも北野社長が、感動したのは海外の人が優勝したこと、それも日本の理美容業界のお家芸ともいえる「スポーツ刈り」部門でのことだった。
大相撲でも同じことがQBハウスでも起きていたのだ。
「どんな方が、優勝を?」タケが前にノリ出す。
優勝したのはシンガポールの女性。日本で理美容師になるには国家資格が必須となるが、海外では国家資格を必要としない国がほとんど。
シンガポールでも、理美容は飲食店を営んでいた人が「なんとなくやってみる?」と無資格で始めるような仕事。
優勝した彼女もバリカンしか使ったことがなく、「ハサミでは疲れる」という意見を持っていたが、10年勤めていくにつれて、技術に目覚めて、リスペクトしている日本人の集まる大会で優勝するまでに至ったという。
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パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野(文化放送アナウンサー)
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