「ステーキ、ミディアムレアで…」なんて頼んでいませんか? dancyu編集長が語る『カッコイイ男』論
2017年に編集長に就任した『dancyu』編集長・植野広生さん。
学生時代に銀座のキャバレーでの黒服を始め、鰻屋や珈琲屋など様々な飲食店でアルバイトを経験し、趣味は料理と音楽という。
一目会った瞬間からおおいに意気投合した二人が「こういう男は(きっと)カッコイイ!」論を"期待"を胸に語り合う。
「地方の食」を語れる男はカッコイイ!
「地方には、すごい食材や料理、食べ方がたくさんあります」という植野編集長。
「だけど、そのことを地元の人は気づいていないことが多いんです」
たとえばこんなことがあった。静岡県の浜名湖の舞阪は「しんこ」(こはだの稚魚)の名産地で、東京のお寿司屋さんでは初夏の旬のものとして喜ばれる高価な逸品だが、取材に行った際に地元の漁師さんからこう尋ねられたという。
「こんなに小さいこはだを、どうやって食うんだ?」ということは、と植野編集長は考える。
「僕たちの知らない食材が、地方にはきっとまだまだたくさんあるにちがいない」
『dancyu』では、毎回巻頭で地方の食材や料理法を紹介している。
最近では宮城の閖上(ゆりあげ)の赤貝を取り上げた。
ここでひとつ、ちょっとカッコイイ!と思われるかもしれないうんちくをひとつ。
「お寿司屋さんで身が厚くて味の濃いおいしい赤貝に出会ったら、『これ、閖上の?』と聞いてみてください。親父さんが『お、お客さん、わかってるね』なんて言ってくれるかも」
味だけでなく香も非常に濃厚だという閖上の赤貝、これはぜひ覚えておきたい。
これまで数えきれないほどの地方取材を重ねてきた植野編集長に、「ひとつだけ、おすすめを教えてください」と無理をねだるタケ。
教えてくれたのは兵庫県の明石浦漁港。
「あまりにも素晴らしくて何度も通っています」
明石浦漁港には、全国的に有名な明石の鯛や蛸以外にも、年間を通じて様々な種類の素晴らしい魚が揚がるという。
「しかも、あんなに魚を大事にしている漁港は他に見たことがない」
水から揚がった魚を、一瞬たりともストレスを与えないように走って大きなプールのような水槽にそっと入れるのだという。
「通っているうちに漁協の方とも仲良くなって、地元の名店にも連れて行ってもらったりしています。世界一おいしい焼うどんも、ここにあります!」
いかや蛸、丸ごとのしゃこなど魚介がたっぷりで出汁がきいているというこの焼うどん、「いつか食べてみたい!」。
カッコイイ男の「デートごはん」マナー
「女性連れのときのカッコイイ食事のマナーも、教えてください」と聞くタケ。
植野編集長いわく「大事なのは"適度"、さらっと、軽い、プチプチトリビア程度にしておくことですね」。
たとえばお造り(刺身)に添えられてくる穂紫蘇。これをどうやって食べるのがスマートでカッコイイか?いろいろなやり方があるが、正式には「お造りの上に散らす」とされている。
それを、連れの女性に「知ってる?穂紫蘇は正しくはね...」と語ってしまってはいけない。それでは適度を超えていて、いやらしくなってしまう。
「え?じゃあどうすればいいんですか?」
その答えは「先にさりげなく自分がやってみせる」。
で、女性の視線を感じたら「実はこれが正しい作法らしいよ」と軽く伝える。
「そうすると、ですね」と続ける編集長。「女性は、『この人、いろんなことを知っているのね!』と、思ってくれる...と思う」(笑)
「言葉で語るのではなく、所作でこなす!これがまずはポイントですね」
続いて聞きたかったのは「カッコイイメニューの選び方ってありますか?」
これについては、「個人的にやっていることですが」と前置きしたうえである技を教えてもらった。
「注文を取りに来た方に、こう聞くんです。あなたが個人的に『今日これだけは食べておかないと嘘だろう』って思うのはどれ?と」
お店のおススメは?と聞いてしまうと、打ち合わせ通りの「売りたいもの」が出てくることが多い。でも、目を見つめて「あなたはどう思う?」と聞くと、一生懸命考えて教えてくれるそうだ。
ステーキの焼き方を聞かれたときにも応用できる。
どんなときでも決まり文句のように「ミディアムレアで」と答える人が多いが、植野編集長は「今日のお肉に最適だと、焼く人が思う焼き方で」と頼むそうだ。
「一番おいしい食べ方を知っているのは、焼く人ですから」
「うっほー」と、感心しきりのタケ。ついでにこれまで気になっていたことも聞いてみた。
「ワインリストからのスマートなワインの選び方は?」ここで、これまで知らなかったワインリストの使い方を知ることになった。
「ワインリストはワインを選ぶためのものではなく、ソムリエさんに今日の予算を伝えるためのものです」
つまり、向かい側の女性には見えないように「例えばこのワインはどんな感じですか?」などと質問しながらワインリストの値段の欄を指差して示す。
「ソムリエさんもわかっているから、『ああ今日のワインの予算は6000円なんだな』と察して予算内でおいしいワインを選んでもらえるというわけです」
たしかに女性を前にして「今日の予算は●●円までです」とは言いにくい。このテクニックはぜひ覚えておきたい。
「食べることを愛する」男はカッコイイ!
植野編集長が今最も注目している食材の一つが「羊」だ。
「羊ってちょっとニオイが気になるとか、どうも固くて...というイメージがいまだにありますが、今の羊は全然違いますよ!」
羊の大きな魅力は、牛や豚とは全く違う香りと味わい、食感があること。
さらに、焼いても煮ても蒸してもおいしいという使いやすさも備えている。
「羊というとジンギスカンかラムチョップくらいしか思いつかない人も多いのですが、普段豚肉を使っているのとおなじ場面で羊は使えます」
植野編集長のいちばん好きな羊料理はシンプルに、長ネギと羊肉を塩で炒めたものだ。
それを食べると「人間という動物が落ち着ける場所はここだったんだと感じる」とまで言うほどで、羊への愛があふれる発言にタケの心にも火が付いた。
「羊!実は私も大好き。今すぐ食べたくなっちゃいましたよ」
御徒町にある「羊香味坊(やんしゃんあじぼう)」というお店では、中国東北地方の羊料理をメインに出している。
「そんなふうに地方を限定しても26種類の料理を出しています。羊料理のバリエーションの豊かさがよくわかります」
羊の人気は今年から来年にかけてますます広がっていきそうだという植野編集長。
「なんてったって、羊料理には『メ~店』が多いですからね!」
お得意の(?)ダジャレが飛び出して微妙な空気になったスタジオ内だったが、気を取り直して(笑)。
植野編集長の『メ~言』ならぬ『名言』を最後に紹介しておきたい。
「dancyu」は、これまでは取材不可でメディアへの掲載は一切NGだったお店や人の紹介を実現している。
その取材にはどんなコツがあるのだろうか?
「愛ですね」と、まずはサラッと言い切る植野編集長。
「取材は困るというお店がある。僕たちも店に迷惑はかけたくない。ただ、読者である食いしん坊の皆さんにこんなに素晴らしいお店があることを知ってほしいという気持ちもある。だから、その愛を、その想いを、とにかく伝え続けるんです」
取材拒否を受けても、一般の客として何度でも通う。
「ただ食べに行くんです」
そして、その店の料理をほぼ食べつくしたころに再度お願いをする。熱い想いを伝える。
「これは、ビジネスでも対女性関係においても大変有効かと思います」
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。
The News Masters TOKYO Podcast 文化放送「The News Masters TOKYO」
http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)