アル・ケッチァーノ奥田シェフは、なぜ「お風呂に60秒潜る」を日課にするのか?
山形県鶴岡市のイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」のオーナーシェフ・奥田政行さん。ドライブインを経営する両親のもと育つも、絶対に料理人にはなりたくないと思っていた奥田シェフ。
高校生の頃、夢中になったバドミントンでインターハイに出場するも「あと一点」というところで試合に負けてしまったことから「チャンスは絶対に取らないといけない」とその経験が人生を支えてきたという。
今回は、奥田シェフが「アル・ケッチァーノ」を開業してから世界から注目を浴びるまでの道のりをタケ小山が聞いた。
どんなに八方ふさがりでも、必ず小さな光はある
農家レストランで、地元の野菜や山菜などについての知識を深めた奥田シェフは、ついに鶴岡に自分の店「アル・ケッチァーノ」を開業する。
「資金はたった150万円。今の店がある場所のもっと脇の方、家賃10万円の元喫茶店だった店舗でスタートしました。とにかくお金がないから、お皿もワイングラスも100円ショップで揃えました。
ただしウェルカムプレートだけは5000円のものにしたんです。そうするとね、みんな後に出てくる100円のお皿までいいものに思ってくれるんですよ」
工夫は、さらに続く。
「壁に飾る絵は、額だけはいいものを買ってきて中の絵は画集から切り抜いていて入れました。メニューを作るお金もなくて、毎日黒板にその日のメニューを書いていたら、その頃アラカルトで100種類くらい用意していたから『すごい!』って評判になったりもして」と笑う。
また、料理に使うハーブを買うお金がなくて、その代わりになるものを山から探してきて使っていたら、アウトドア雑誌に「日本の野草を使いこなす天才的なシェフがいる」と取り上げられたこともあった。
「どんなに八方ふさがりの状況でも、必ず小さな光はある」と奥田シェフ。
「その光に向かってまっすぐに走っていれば、ある時突然、オセロの黒の駒が白にパッと変わる瞬間がやってくる」
あきらめてしまったら、完全に暗闇に入ってしまう。光が見えないな、と思っても必ずどこかに打開策はあるんだと力強く語るのには確かな理由がある。
「だって、これまで、いつでもそうだったから」
奥田シェフだって、決して順風満帆の道を歩んできたわけではない。
「まっ暗闇に入ったとことが、これまでに4回あります」。でも、そのたびに目の前のことに最大限の力を注ぎ、小さな光を探して、見つけて、まっすぐに歩んできた。高校生時代のバドミントンの試合での「あと一点」の悔しさを忘れずに、チャンスをつかむための努力を重ねてきたのだ。
頼まれごとは「120点で返す」という心意気
アル・ケッチァーノには連日全国から客が押し寄せるようになり、いつのまにか押しも押されもせぬ有名シェフとなった奥田シェフ。気がつけば、海外からのオファーも多く入るようになっていた。
「お前の料理は面白い、という評価を海外からももらえるようになったんです」
その代表となる料理は日本のお米を使ったリゾットだ。一般的にはリゾットには日本の水分の多いお米は向かないとされているが、「日本のお米は世界一おいしいんだから、それで作ったリゾットも世界一おいしいはずなんです。ただ、べチャッとならないように、いろいろな工夫はしています」という。
頼まれたことに対して「必ず120点で返す」という奥田シェフ。
「誰かに何かを頼むときというのは、だいたい成功したらこれくらいで失敗するとしたらこれくらい、というふうにラインを引いているものなんです。その期待値を超える120点をマークすると、また声がかかります。
みんなが想像する以上の飛びぬけた結果を出せるからこそ、将棋の藤井くんもスケートの真央ちゃんも卓球の愛ちゃんもスーパースターになれたんですよ」
そして…、と続ける。
「頼み事やツキは、必ず上の人が持ってきてくれます。だから、上の人に可愛がられる存在でいないといけない」
そのためには、年上の人を尊敬し、年下の人を尊重することが大切だという。
「一緒にいて居心地がよくてそばに置いておきたくなる存在になると、チャンスが広がります」
店のスタッフたちにもいつも「可愛がられる人になりなさい」と教えている。
チャンスを得た後は「一所懸命」つまり「やりきろうと決めたひとつの場所をしっかり守ることが大切です」という。守りきれたら、次は360度の視野をもって真剣勝負に挑む。戦えるようになると信頼されて評価されるから、お金もついてくる。給料も上がる。
「そして、採取的には“夢中”というステージに入っていく。そうなると、もう、こわいものはありません」
いろんなレストランでの修行経験のある奥田シェフに、タケは、一つ聞いてみたいことがあった。
「ビジネスパーソンの中には、今の場所じゃない別の場所で力を試してみたいという転職へのあこがれがあると思うんですが、奥田さんならそんな方にどんなアドバイスをしますか?」
奥田シェフの答えは明快だった。
「これまでの経験は財産だから、それは活かすべき。今までやってきたことを活かせる、でも全く別の世界に行くといいと思う」
そのあと「僕もね」と続けた。
「包丁をバドミントンラケットだと思って使うと、リズムよくダダダダっと切れるんですよ。あの時、一点が決められていたら、今頃はバドミントンのナショナルチームの強化部長だったかもしれないなぁ」
爆笑するタケ。「奥田さんのこと、大好きになっちゃいました」
成功の秘訣は「時間」
JR東日本の豪華寝台列車「トランスィート四季島」の朝ごはんの監修を担当したことでも話題を呼んだ奥田シェフだが、「そういうお誘いはどんなふうに入ってくるんですか?」と聞くタケに「鶴岡に列車を停めてくれるなら引き受けますって返事したんですよ」と笑う。
そして、停めてくれるなら鶴岡ではこんなサービスが用意できます、と逆提案もしたおかげで、その場で即決。
「その時点では実現できるかどうかわからなかったんですけど、ここが勝負時だと思ったから。そういうときはまず決めちゃって、あとで関係者を説得すればいいんですよ」
いつでも「時間」がとても重要だという。
「ドラえもんみたいな存在でいたい」という奥田シェフは、困っている人がいたらなるべく3秒以内で答えを出してあげるそうだ。「はい、タケコプター」という感じで素早く、ニッコリ、相手が負担にならないような気軽さで、もちろん見返りなんて期待しないで。
時間に関する感覚を磨くために、お風呂に60秒間潜ることを日課にしている。
「60秒くらいなら息を止めていられます。その時間感覚を身に沁みこませるんです」
それがどんな時に役立つのか?たとえば店でカップルがデザートを待ちながら楽しそうに「いちご」の話をしているのが耳に入ったとする。予定していたのはチョコレートを使ったデザート。でも、このタイミングでイチゴのデザートを出せば二人の気持ちはきっと盛り上がる。さあ、間に合うか?
「そのタイムリミットは25秒くらいなんですよ。それを過ぎたら、きっといちごの会話は流れて行ってしまうから。でもうまく間に合えば二人に未来への翼をプレゼントできる」
奥田シェフにとっては、時間まで含めての料理なのである。
人生の中で起こったさまざまな出来事を、すべて自身の糧として今につなげている奥田シェフ。その優しい温かな眼差しの向こうにはどんな未来が映っているのだろうか。
「飲食業という枠にはまらず、よりよい未来に向かってバトンを渡したい。ずっと先の日本の農林水産業のことまで考えられる料理人を育成することに、力を注いでいきます」
初対面で、たった一時間の対談。それでも互いに感じあうところがあった二人は最後にがっちり握手をして、再会を誓った。
「お互い、未来のためにがんばりましょう!」
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。
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文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
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パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:小尾渚沙(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)