「大事なのは、勝ち方を知っていること」ネスレ日本社長が語るリーダーの資質
大学卒業後、外資系企業のネスレ日本に新卒で入社し、トップまで上り詰めたネスレ社長の高岡浩三氏。父親も祖父も42歳でこの世を去ったことを知り、42歳という年齢をゴールとして意識するようなったという。実力主義の外資系で、ブランドでたくさんの人を幸せにできる仕事がしたいと考え、ネスレ日本に入社。40代になると「キットカット」を担当。しかし、CMを打っても売り上げが伸びる時代ではなく、考えた末に誕生したあの有名なフレーズは、強力なブランドイメージを作り上げた。今回は、高岡社長が考えるリーダーの資質と新しいビジネスが生まれる理由についてタケ小山が迫った。
21世紀のイノベーションとは~「ネスカフェ アンバサダー」という挑戦
目標の一つとして「マーケティングを広めるために力を尽くしたい」と高岡氏は考えている。「これは、社会に対する貢献という分野での目標です。日本は今後、少子高齢化によって国の力は縮小していくことになる。しっかりと稼ぐ方法をマーケティングから学ぶことが必要だ」という。
「ネスカフェ アンバサダー」という業界の枠を超えて大きな話題となったイノベーションを起こし、大成功を収めたプロジェクトを立ち上げたのも、高岡氏である。
「ネスカフェは大きなブランドに育ち、カテゴリー内シェアは70%を占めるまでになったが、これ以上拡大するのは難しいだろうと思った」
また、家庭では多くのひとに飲まれている「ネスカフェ」が、一歩外に出ると会社やレストランではほとんど目にしないということにも気づいていた。当時、ネスレには、一杯ずつのカプセルに入ったコーヒーと、それを抽出するマシンがすでに商品としてあった。「このマシンをオフィスに置いていただければ、缶コーヒーよりも安い価格でおいしく、かつ手軽に飲んでもらえる」と高岡氏は考えたが、問題はその仕組みの構築だった。
ここで、日ごろから考え、学び続けていたマーケティングが大いに活きることとなった。
オフィスに1人、「ネスカフェ アンバサダー」という立場の人を作り、その人にマシンのメンテナンスやコーヒーカプセルの定期購入、代金の徴収・支払いなどをお願いする。「ただ、給料も払わずにそんなことをやってくれる人がどのくらいいるのか、全く読めなかった」ので、「北海道でテストを行いました」。
その結果は驚くべきもので、1週間で1500人の応募があった。なぜ、無給で面倒なことを引き受けてくれるのか?
その理由の大きな一つが「みんなから感謝されるのが嬉しい」。それによって、わかったことがある。「自己実現を求めている人がこんなにも多い」ということである。
マーケティングの神様的存在フィリップ・コトラーが言うところの「自己実現の欲求を満たしていく」ということに、ビジネスモデルがつながった瞬間だった。
現在では30万人を超える「ネスカフェ アンバサダー」がいる。単純計算で、約500万人以上が毎日「ネスカフェ」をオフィスで楽しんでいることになる。「オフィスでのコミュニケーションが活発になって雰囲気が良くなったというようなお話もいただきます」と嬉しそうに語る高岡氏は「21世紀はインターネットで解決する時代です」と続けた。「今という時代が抱えている問題をインターネットで解決していくことを考えないといけない」。
リーダーにとって最も重要なこととは
新入社員で入った会社で順調に成果をあげてついには社長になった高岡氏だが、「社長になりたいと思っていたわけではない」という。そう言った後で「でも、実は新入社員の時の抱負として社内報に『社長になる』と書いていたそうです」と笑う。
「え?それはどういうことですか?」と突っ込むタケに、高岡氏はこう答えた。
「やりたいことがあったから、やりたいことをやるためにはそれなりのポジションになる必要があるとは思っていた。やりたいことがまず先にあって、それを達成するための手段としてトップになろうと考えていたのでしょう」。
いちばん最初にリーダー的役割を担ったのは、30歳の頃。粉ミルクのプロジェクトリーダーを任されることになった。年下ばかりを部下に集めて、7~8人のチームを立ち上げた。
「若かったから、失敗もたくさんありました」
このプロジェクトは2年半の試行錯誤の末に「日本での販売はNOであると決断して報告する」という結果となった。「NO」ということは、自分で自分の仕事を無くすこと。サラリーマンとしてキャリアに傷がつくかもしれないという覚悟もしたという。
だが、結果としてはそうはならなかった。それどころか「あのときNOが言えたから、社長になれたのかもしれない」と思い返すこともあるという。当時のネスレには「その国の社長に、その国の人はなれない」というルールがあったが、高岡氏は、初めてそのルールを破ってネスレ日本の日本人社長になったのである。
今回、そんな高岡氏にぜひ聞きたかったことの一つがリーダーシップ力に関する考え方であった。「高岡さんの考えるリーダーの資質って何ですか?」とタケが尋ねる。
「リーダーに必要な資質については、たくさんの本が書かれている。よく言われるように尊敬されるような人格や情熱などは当然求められるものでしょう」と言った後で、「でも…」と続ける。
「一流のリーダーになるために必要なのは、勝ち方を知っているということです」ときっぱり。成果を出せない、勝てないリーダーには誰もついていけない。
「勝ち方を知っているということが非常に大事です」
新しい現実から新しいビジネスは生まれる
最後にタケが聞いたのは、「高岡さん、今後はどんなことで勝っていくぞ、と思っていらっしゃるんですか?」
高岡氏が見つめる未来は、タケならずとも気になるところだ。
「日本は長寿国ですが、健康寿命とはまだ10年程度のギャップがあります。高齢化社会を生きる上での人々の願いは、健康に長生きがしたいということ。そこにネスレが役に立ちたいと願っています」
その想いから始めたのが、「ネスレ ウェルネス アンバサダー」という新しい仕組みだ。
「栄養不足を気にしてサプリメントを服用している人は多いが、ほとんどの方は実際に自分に何が足りないかを正確に把握しているわけではない。個別に診断して足りないものを見つけ、それを添加した『ドルチェグスト』の抹茶カプセルを提供して、不足している栄養をおいしく楽しく摂ってもらうということを実現していきたい」。
それに加えて認知症の予防に役立つ脳トレを提供するなどのサービスも導入している。
「食品会社だから食品だけをやるというのは、今の時代には通用しない」
原点に大きな志があるからこそ、様々な垣根を飛び越えてアイデアが広がっていくのだろう。普段から会議で繰り返している言葉があるという。「新しい現実を見つめよう」と。
「少子化で消費も落ち込んでいくと言われていますが、そんな状況だからこそのチャンスもきっとあるはずです」という高岡氏。
「人口は減少しているが、世帯数は伸びている。例えばコーヒーも、以前のように家族みんなでたくさん淹れて飲むのではなく、一人ずつ一杯ずつの需要が高まっている。だから、一杯ずつ包装されたカプセルとボタンを押すだけのマシンが受け入れられた。新しい現実に合わせたソリューションをこれからもどんどん提供していきたい」
「新しい現実を見つめると、新しい問題が見えてくる。それを解決するのがマーケティングであり、ビジネスです」。
ゴルフの男子トーナメントの主催も3年前から始めた。
「世間では、プロゴルフのトーナメントは女子の方が人気です。だからこそ、あえて男子でニュースを作るという狙いです」
「ネスレマッチプレーレクサス杯は賞金額も日本最高なんですよね!」とタケ。
「はい。1億円の賞金、しかもマッチプレー。世界に出て勝っていける日本人プレーヤーを作りたいという志も当然あります。それらがすべて話題となってニュースになる」
宣伝効果はかなりの数字を挙げているということで、「十分にリターンがあります」と笑う。
今年からは帝王トム・ワトソン氏をアンバサダーとして招聘。「彼は世界で勝つことを知っているひとなので」というのがその理由だという。
まず、根本には大きな志がある。そして、逆算力によって細分化された具体的な目的に落とし込んで、ひとつずつ確実に実現していく。「勝ち方を知っている」と堂々と言い放つ高岡氏はいったい見えないところでどれほどの努力を重ね、考え続けているのだろうか。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。
The News Masters TOKYO Podcast
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文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:小尾渚沙(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)