賃上げ!前払い!企業が取り組んでいる人材確保に向けた創意工夫
少子高齢化に突入した日本では、ビジネスシーンがこれまでになく大きな変容期を迎えている。なかでも、飲食、販売、流通などの多くの業界で、人手不足がかなり深刻な状態になっていることは、周知の通りだ。
その証に、飲食店に行くと日本人より外国人スタッフの数が多い店舗も、今ではさほど珍しくなくなっている。企業や店舗は、少しでも多くの人材、有能な人材を集めるため、さまざまな人材確保策を展開している。
その最大の対応策といえるものが賃上げだ。例えば、アルバイトの時給アップ、正社員の給料アップなどの待遇改善をはじめ、給料の前払いなどの新しい取り組みも、すでに多くの企業で行っているようだ。
今回は、より多くの人材を確保するために企業側が取り組んでいる「創意工夫」を見てみよう。
データが物語るアルバイト・パートの賃上げ
人手不足を解消するため、企業側がまず行うのが賃上げだろう。同じ業務内容でも少しでも賃金を上げ、一人でも多くの人材を確保しようと、各企業は懸命だ。
リクルートジョブズが企画運営する全国の求人メディア 『TOWNWORK』『TOWNWORK社員』『fromA navi』に掲載された求人情報をまとめた調査によると、三大都市圏(首都圏・東海・関西)の7月度の平均時給は 1058円(前年同月1035円、前月1054円)だった。これは前年同月より23円増加、増減率+2.3%の数字だ。
代表的な職種別に見てみると……
●事務系 ➡ 前年同月比増減額+37円、増減率+3.4%
●フード系 ➡ 前年同月比増減額+27円、増減率+2.8%
●販売・サービス系 ➡ 前年同月比増減額+27円、増減率+2.6%
など全職種で前年同月比プラスになっている。
前月比においても事務系、製造・物流・清掃系、フード系とも前月比増減額+4円、増減率+0.4%など、全職種でプラスとなった。
三大都市圏をエリア別に見てみると、
●首都圏
平均時給は1104円、前年同月より28円増加(増減率+2.6%)、前月比は9円増加(同+0.8%)
●東海
平均時給は986円、前年同月より13円増加(増減率+1.4%)、前月比は2円減少(同-0.2%)
●関西
平均時給は1029円、前年同月より27円増加(増減率+2.7%)、前月比は3円増加(同+0.3%)
このようにいずれの職種、エリアでも、アルバイトやパート従業員の賃金が引き上げられていることがわかる。
大胆に賃金引き上げを実施する注目企業
ソフトバンクグループ傘下のYahoo! Inc.(以下Yahoo!)に子会社化されることになったファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOは、今年5月、これまで1000円だった時給を1100円にアップ。
また、週4日以上の勤務なら1000円から1300円(3割増)へ……など、全アルバイトスタッフの時給を最大3割引き上げを発表。
さらに、新たに2000人を募集すると発表。この人員補給は、千葉県習志野市、茨城県つくば市の物流倉庫での商品管理アルバイトで、ZOZOTOWNに出店しているショップの商品サイズの計測、商品撮影、発送業務などが主な業務内容といわれている。
加えて、決められた基準以上の成果を出すと、月あたり最大1万円のボーナスを支給するとした。履歴書不要で、未経験者も歓迎という条件だったためか応募が集中。すぐに定員を上まわり、募集は締め切られた。
カリスマ社長の前澤友作氏は退任したが、Yahoo!傘下となってさらに経営の拡大が見込まれるZOZOが、次にどのような人員確保策を出してくるのかも注目されるところだ。
正社員にもさまざまな待遇改善が
全国にステーキレストラン「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスは、今年になって正社員の給料を平均6.18%賃上げした。これにより、社員応募の問い合わせが増えているという。
首都圏と関西でスーパーマーケットを展開するライフコーポレーションは今年、これまで一部の正社員が対象だった月額1万5000円の子ども手当を、契約社員など約100人に拡充。契約社員でも正社員と同じ待遇に近づき、社員から評価されている。
また、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、来春入社の社員の初任給を、20万円から25万2000円へと、21%の大幅アップを決めた。
これは国内のみならず海外への転勤もあるグローバルリーダー社員が対象で、より優秀な人材を確保するため、競争力を高めるための施策としている。
大卒の初任給の平均は20万円ほどなので、この額がかなり思いきったものだとわかるだろう。
学生バイトなどに給料前払いも登場
自分がその日、働いた分の給料はすぐにでも受け取りたい……。こうした本音をもつアルバイトやパートは実際のところかなり多いはずだ。
そうした隠れたニーズがあるのであれば、人材を確保し、その人材を維持し続けたい企業側にとって、給料のスピーディーな支払いも大きなメリットになることは間違いない。
ジャパンネット銀行は、給料前払いサービスを展開し、企業の給与支払い業務を担う提携先企業(主にシステム会社)を増やしている。
この前払いサービスはすでに以前から展開していたものだが、今年1月に24時間いつでも受け取り可能としたところ、提携先企業が3倍以上に増えたという。
現在このサービスを利用するのは全国で約1万社、12万人ほどと推定されている。
ここで言う「給料前払いサービス」とは、次のようなシステムが多いようだ。
- バイトスタッフなどの従業員がスマートホンで働いた給料分の前払いを申請。
- その従業員の勤務実績などを会社側が確認
- 確認後、すでに働いた分については給料日を待たずに入金される
同様のサービスはセブン銀行でもスタートしている。これまではセブン銀行以外の口座への前払いは、深夜など、即時に対応できない時間帯があった。
しかし今は、給料前払いサービスで24時間いつでも受け取れるようになっている。
この制度を導入するのはショッピングセンターやファミリーレストラン、コンビニなどの業種に目立っている。
学生や主婦などがアルバイトやパートとして多く働く職場で、給料の支払いが1カ月に1回では困るという人も多い。
「前払いサービスがあるから、この店で働こう」という人も、今後増えてくるのではないだろうか。
また、このサービスは今後、外国人労働者などにも広がっていくことが見込まれている。
まとめ
多くの業界にとって、深刻な悩みとなっている「人材不足」。しかし、単に賃上げや前払いサービスを導入したからといって、簡単に人材を確保できるのだろうか……。その点について疑問が残ることは確かだろう。
翻れば、働く人にとってやりがいや成長が感じられない仕事では、早めに給料をもらえたとしても長続きしないことは確かだろうし、賃上げとともに、働く意味を重視した施策も必要となってくるのではないだろうか。
また、富裕層、貧困層に大きく分断された現代の日本社会(格差社会)において、全国一律で最低賃金を1500円にすべきとの論もある。もちろん賃金が引き上げられることは多くのメリットをもたらすだろうが、これですべてが解決することはない。
── 働き方改革が思いのほか盛り上がっていることは事実だ。その一端として政府、経済界が一体となり、税金、社会保障を巻き込んだ新たな視点で、新しい社会、新たな労働環境を構築する必要性が求められているのではないだろうか。そして、その転換期は“今”なのかもしれない。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーランスライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車。