吉崎誠二の「データで読み解く、不動産市況のいま⑧」【都心のタワーマンションは今後どれくらい増えるのか?】
2000年台に一気に増えたタワーマンション。現在も人気は堅く、新規販売物件の売れ行きも好調のようです。
増え続けるタワーマンションですが、これからどれくらい増えるのでしょうか?今回もデータを見ながら解説します。
東京都心は、一気に高層化が進んだ
1990年台後半までの東京都心は、まだ高層建物が少ない街でした。
しかし、2000年代に入ったころから、高層ビル、高層マンションが増え、街の景色が一変しました。1997年に容積率の緩和制度が導入され、高層マンションや高層ビルが建ちやすい環境になりました。また、都内主要都市での再開発が進んだのも2000年代に入ってからです。都心の再開発の中には、六本木ヒルズのように長い期間をかけて実現されたものもありました。その多くは2000年代に入り計画されたもので、跡地は高層ビルや高層マンションに生まれ変わりました。
また、企業の経営スタイルの変化が首都圏の街並みを変えた側面もあります。
2000年代前半は、「持たざる経営」がもてはやされた時代でした。不要な不動産は持たない等、「オフバランスの推進」 こそが、「これからの企業のあり方だ」、という風潮が広まりました。これにより、企業は、社宅や稼働率の低い工場用地の売却、あるいは工場そのものを地方都市に移し、そのあと跡地の売却などを進めます。これらの中にはかなり広い敷地面積のものもありました。そこにタワーマンションが建ったのです。このような2000年代前半の社会的な背景、経営スタイルの変化から、首都圏にタワーマンションが増え始めました。図1は2004年~17年までに建てられ20階建て以上のマンション(タワーマンション)の棟数と戸数(室)を示したものです。(不動産経済研究所調べ)
高層(タワー)マンションだけでなく、高層ビルも増えました。2002年に制度化された特例容積率適用区域制度(容積率移転、空中権売買)を適用しすることで、丸の内、大手町、有楽町エリアのビルが建て替えを行い、高層ビルが一気に増えました。
再開発がすすめられたこと、制度改正が行われたことなどから、東京の街の高層化が進んだ、と言っていいでしょう。
タワーマンションはなぜ、なぜ人気なのか?
タワーマンションとは、何階以上の建物を指すのか明確な規定はありません。概ね地上60M以上、20階建てくらい以上のマンションを指すようです。
先に述べたように、1997年容積率の緩和が盛り込まれた建築基準法の改正が行われて、その後次第に増えていきました。これが、なぜ増えたのか?の理由の1つです。これまでよりも、高い(大きい)建物が建てられるようになったということです。
タワーマンションは、まずは都心の再開発エリア、湾岸(内陸側)エリア(品川、芝浦、天王洲など)に建ち始め、そして2000年台真ん中あたりからは、東京湾の埋め立てエリア(豊洲、有明、東雲など)へと拡大していきました。2010年ころからは、地方都市や東京郊外エリアへ広がっていきました。
タワーマンション人気の理由を考えてみましょう。
1) タワーマンションの多くは交通利便性がいい。
再開発エリアに建てられることが多いため、たいていは、駅前もしくは駅から近い所にあります。
ただし、東京湾埋め立てエリアは、これに該当しません。
2) タワーマンションはミーハー受けする?
少しミーハーな観点で、タワマンにあこがれる方々もいるようです。テレビドラマもあったりして、こうした感情に拍車をかけているのかもしれません。
3) タワーマンションは、年数が経っても値段が下がらない?
ある調査機関が試算した20年後に値段が下がらないマンション上位リストを見たことがありますが、それによると地方大都市の駅前にそびえ立つタワーマンションが上位を独占していました。東京都心のマンションもいくつか入っていましたが、地方大都市駅前タワマンの存在が圧倒的でした。
このように、長期的視点で資産価値が下がりにくいと思われます。
4) タワーマンションは、立地の割に意外とお買い得?
駅の目の前という好立地のため、あるいは人気があるということから、かなり高価格帯をイメージされがちな、タワーマンションがですが、モデルルームに行って、実際に担当者から話を聞くと「以外にも手に届きそうな価格」と思う方が多いようです。
最も多かった時代:2004年~09年にタワーマンションはどれくらい建ったのか?
図2は東京23区内に2004年~09年に建てられたタワーマンションを示したものです(不動産経済研究所調べ)。
2008年秋にリーマンショックが起こりますが、2009年までは毎年30棟以上のタワーマンションが建てられます。2004年~2009年までに、なんと220棟、71310室のタワーマンションが販売されました。
その後2010、2011年は少し減ります。また、2016年、17年も不動産市況が好調等の理由で、マンション適地が減っていることもあって少なくなっています。しかし、2010年以降も毎年12~24棟のタワーマンションが建てられています。このように東京23区は、タワーマンションだらけの街になりました。
今後、どのくらい増えるのか?
図3は、今後の23区内でのタワーマンション建築の計画を示したものです。2004~09年に比べると少なめですが、2019年、2020年には、再び増える見通しとなっています。また、2022年以降もかなりの計画があることも分かります。
図ように、東京23区内でこれからもどんどん建てられる見込みです。都心一等地の再開発は、これからはそれほど多くない一方で、湾岸エリア、とくに東京湾埋め立て地エリアにはまだまだ、タワーマンションが建つことでしょう。
吉崎 誠二
不動産エコノミスト 社団法人 住宅・不動産研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。著書:「データで読み解く 賃貸住宅経営の極意」(2016年2月)「2020年 大激震の住宅不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを買える人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/