同一労働同一賃金を実現するための賃金以外の格差とは?
目次
同一労働同一賃金を実現するために、いわゆる正規社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間にある賃金にかかわる問題を見てきました。
さらに、もうひとつの「格差」である「福利厚生、キャリア形成、能力開発」についても、均等な待遇を実現する必要があります。
最終回となる今回は、見過ごされやすい「福利厚生や教育」に関してチェックしてみましょう。
特に、教育機会の拡大は非正規社員の能力やスキルを開発するうえで、生産性の向上や処遇改善につながる重要なポイントになると考えられています。
福利厚生
【1.福利厚生施設の利用】
正規社員と同一の事業所で働く非正規社員には、食堂、休憩室、更衣室などの福利厚生施設について、同一の利用を認めなければなりません。
例えば、社員食堂で500円の日替わり定食を食べるとします。正規社員が社員証の提示により400円で食事ができるのに対し、パートなどの非正規社員は定価の500円でしか食べることができない、という状況は同一条件での食堂利用ではありません。
また、更衣室の利用についても、正規社員に個人用ロッカーの付いた更衣室を利用させている場合、均等な待遇を実現するためには非正規社員にも同様の施設を提供する必要があります。
【2.転勤者用社宅】
住まいに対しても同じことが言えます。
正規社員と同一の社宅使用要件(転勤の有無、扶養家族の有無、賃金の上限など)を満たす非正規社員にも、同一の利用を認めなければなりません。
そもそも転勤社用の社宅(または寮)は、会社の都合で転勤させたことにより通勤が困難となる場合に住まわせるものですから、合意の上で異動命令を受けて転勤した非正規社員に利用を認めるのは当然といえます。
【3.慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、有給保障】
これらについても、非正規社員にも、正規社員と同一の付与をしなければなりません。
ただし、週の労働時間が短いパートタイム労働者については、同一労働同一賃金の考え方に則していれば、次のような対応も可能です。
例えば、慶弔休暇を取得したい日と勤務日が重なった場合は、勤務日を振り替えることを原則とし、振り替えができない場合のみ慶弔休暇を与える、というルールです。
【4.病気休職】
2013年に施行された労働契約法の改正により、最短で2019年4月1日には有期雇用契約を5回更改したパート労働者などの非正規社員が再契約を希望した場合は無期雇用となります。こうした無期雇用に転換された非正規社員には、病気休職について、正規社員と同一の付与をしなくてはなりません。
有期雇用の非正規社員には、労働契約の残存期間を踏まえて付与すれば問題ありません。つまり、契約期間をあと半年残したパート労働者に対して、病気休職の期間を契約の終了日とすることは適正な処遇とみなされます。
【5.法定外年休・休暇(慶弔休暇を除く)】
永年勤続休暇のように法定外の年休・休暇を勤続期間に応じて制度化している場合は、非正規社員についても同じ条件で休みを与えなくてはなりません。
有期雇用契約を更新しているパート労働者の場合、最初の契約期間から通算して勤続期間を計算する必要があります。
例えば、3年勤続の社員に5日間の永年勤続休暇を与える制度があるとすると、最初の契約から通算して3年間勤続したパート労働者にも当然同一の休みが与えられます。
教育訓練および安全管理
【1.教育訓練の公平な実施】
現在就いている職務に必要な技能や知識を習得するための教育訓練を実施する場合、正社員と同一の職務内容である非正規社員にも、その教育訓練を受けさせる必要があります。
ただし、「正社員は金銭の集計業務を行い、売り上げを報告する職務があるが、パート社員は店頭の販売だけを担う」、というように、職務の内容や責任に一定の違いがある場合には、その違いに応じた教育を実施することになります。
店頭での販売知識に関する教育訓練は、すべての社員に対して実施し、経理業務に関する教育訓練は、その業務を担う正社員にだけ行えばよいのです。
【2.安全管理に関する措置・給付】
正規社員と同一の業務環境に置かれている非正規社員には、安全管理に関する措置や給付を同一に行う必要があります。
防災対策として社員にヘルメットを支給する場合は、同じ職場で働くパート労働者を含む非正規社員にも同様に支給しなくてはなりません。
── 同一労働同一賃金について、これまで3回にわたり、基本給、賞与(ボーナス)、諸手当、福利厚生、教育訓練など処遇の格差をどう解消するか、を見てきました。
基本的な考え方は、2016年12月20日に政府が示したガイドラインに沿って説明してきましたが、実際の法整備はこれからであり、政府は労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の関連3法を改正し、2019年度の施行を目指しています。
実現にあたって、パートタイムの賃上げや賞与支給など中小企業の経営を圧迫しかねない要素もあります。法整備に向けては紆余曲折が予想されているものの、各企業としてはこのガイドラインを受け、必要な措置を今から準備していくに越したことはないでしょう。
≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、介護福祉士の資格を取得。現在は社会福祉法人にて障がい者支援の仕事に携わる。28年に及ぶクラシック音楽の評論活動に加え、近年は社会問題に関する執筆も行う。
【転載元】
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