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Microfinanceの先駆け。貧困層に融資し、常識を覆したグラミン銀行

世界では30億にのぼる人びとが預貯金、融資、保険といった基本的な金融サービスを享受する生活レベルになく、慢性的な貧困・飢餓から抜け出せない状況にあります。

そうした中、世界銀行が「約9億200万人の世界の貧困層が、2015年中に7億200万人に減少する」という明るい予測を打ち立てたことを、前回の記事でご紹介しました。
これは長年にわたって支援に取り組んできた国連UNHCR協会、ユニセフ(国連児童基金)、赤十字社に代表される人道支援団体の取り組みの賜物といえますし、さらには本記事でご紹介するマイクロファイナンス(以下・Microfinance)も、貧困層減少に大きく貢献していることは間違いないでしょう。

常識を覆す革新的スキーム。ノーベル平和賞を受賞

Microfinanceが世界の共通言語になったのは10〜20年ほど前のこと。大きな転機となったのは、Microfinance(当時はMicrofinanceではなくマイクロクレジットと呼ばれていた)の先駆けといえるグラミン銀行(バングラデシュ/創始者ムハマド・ユヌス氏)が、農村部の貧困層に無担保・小規模融資を実施し、その功績によってノーベル平和賞(2006年)に選ばれたことにあります。同受賞を機に「マイクロクレジット」の名が世界に認知されるようになったのです。



前回の記事でもグラミン銀行の概要を示しましたが、今回も図にてその概要をご確認ください。ここであらためて言葉の定義を確認すると、「マイクロクレジット= Microfinance」= 貧困層の人々に無担保で小規模の融資を行う金融サービスの総称となります。

グラミン銀行は1983年に創設されましたが、それまでの銀行のグローバル・スタンダードは「貧しい人に融資をしても回収は困難」「融資 = お金を捨てるようなもの」という圧倒的多数の懐疑的、否定的な意見で占められていました。
しかしグラミン銀行は「貧困から抜け出すきっかけをつかめない人も多い中、貧困層が企業家としての能力を持っていないと考えるのは誤りであり、彼ら、彼女たちも資金があれば商売を始めて、利益を得ることができる」という信念の下、多様な革新的なスキームを実践していきます。結果、貧しい人々を対象(顧客)とした銀行を作り上げることに成功したのです。
グラミン銀行の常識を打破する取り組みと成功ストーリーは瞬く間に世界を駆けめぐり、各国でマイクロクレジット機関が設立されるように……。つまりは懐疑的、否定的な見解で貧困層を相手にしなかった銀行が、積極的に貧困層への融資を行うようになっていくのです。

『ユヌス教授のソーシャル・ビジネス まんが版 ― グラミン銀行創設者・ノーベル平和賞受賞者 』(滋慶出版・つちや書店)


グラミン銀行の成功プログラムのひとつ “5人組制度”

グラミン銀行が構築したスキームは多種多様ですが、代表的なものとしてあげられるのが「グループ貸付」になるでしょう。この「グループ貸付」は5人組を一単位とする貧困層向けの小規模融資プログラム(無担保・低金利)となります。
このプログラムが誕生した背景には、グラミン銀行があるポイントに着目したことに端を発します。それは農村部に暮らす女性たちの間に存在する強固なネットワークでした。農村部では互いの家族構成、夫・妻の性格、嗜好、クセなど熟知しあっており、それだけに「◯◯さんは信頼のおける人か否か」という判断基準が確立していることになります。要は、グラミン銀行はそのネットワークを担保として、小規模融資プログラムを機能させたのです。

「グループ貸付=5人組制度」がもたらしたメリット

「グループ貸付=5人組制度」は、5人のうち1人でも返済不能に陥れば、他の4人はその後融資を受けられないという明瞭なシステムなのですが、このプログラムでは次のような効果が実証されていきます。

  • 1人の事業がうまくいかず、返済できなくなった(デフォルト)際に他の4人が助け合う
  • 1人でも怠けたり、危険な投資をすることがないよう、互いにチェックするようになる
  • 信頼のおけない人と同じグループになりたくないので、信頼のおける者同士が集まるようになる = 高い返済率が担保される

こうした点から、最初に危惧された「貧しい人に融資をしても回収は難しい」「融資 = お金を捨てるようなもの」という否定的意見は払拭され、高い返済率が実現することに。事実、グラミン銀行の顧客となったバングラデシュ人の半数以上が貧困層から脱出し、1日3回の食事はもちろん、学齢期の子どもは学校に通い、さらには清潔な水を飲み、衛生的なトイレと雨漏りしない家を持てるようになった、とグラミン銀行は主張。その顧客数は延べ330万人にのぼるというから驚きです。

一方で、“5人組制度” がもたらした弊害も

世界的に貧困層向けの融資制度がない中、常識を打破するかのごとくスタートしたグラミン銀行の “5人組制度”は、革新的スキームとして報じられた一方、下記のようなデメリットも表出させます。

  • 同じグループのメンバーがデフォルト(返済不能)すると自分が肩代わりすることになり、メンバー間のピアプレッシャー(返済プレッシャー)や軋轢が増した
  • ビジネスが成功して積極投資をしたい人は、他のメンバーの完済を待たねばならないので、制約を受けていると感じてしまう
  • 地道にやっている人は、積極投資している人のリスクを負わされていると感じて、グループで借り続けることが不都合になってきた

江戸時代の日本でも、古代の「五保制」にならった近隣五戸を一組とする統制制度「五人組」がありました。学生時代に習いましたので、覚えている方も多いでしょう。これは最末端の行政組織であり、犯罪防止や年貢納入時に連帯責任を負わせる仕組みでしたが、グラミン銀行が構築した“5人組制度”によるグループ返済と、日本の「五人組」の形式は非常に似ています。残念ながら、日本の「五人組」が連帯責任においてどれほどの効果をあげたか具体的な数字はわからないのですが、グラミン銀行ではいくたびのプログラムの見直しによって、銀行設立以来、異常ともいえる(!)返済率97%を継続しているといいます。

日本初のMicrofinanceファンドも、2009年に誕生

ここまで、グラミン銀行が打ち立てたMicrofinanceのスキームについて触れてきましたが、今日ではMicrofinanceの専門機関・組織を「MFIs」と呼ぶようになっており、はっきりした数字はないものの、世界で約1万以上のMicrofinance機関が存在するといわれています。
その組織形態も「政府系機関」「民間の非政府組織」「NGOから銀行へと業態転換を行った組織」と様々なうえ、発足経緯も多種多様とバラエティ豊かですが、1万機関中約200機関が成熟した事業モデルを確立。世界で最も貧困層が多い「サブサハラ・アフリカ地域(サハラ砂漠以南)」と、貧困層の割合が高い「東アジア・太平洋地域」を筆頭に、開発途上国で展開する「MFIs」は全体の75%を占めることがわかっています。

一方、日本でも2009年に日本初のMicrofinanceファンドが誕生。東京渋谷に若者が30名ほど集まり、「若者主導による新機軸のファンド誕生!」と、大々的にニュースなどで取り上げられましたので、記憶されている方も多いことでしょう。この時に誕生した日本第1号のMicrofinanceファンドは、ファンドの創立メンバーの6割が金融機関出身者ということもあり、早期にファンド組成に成功。当初のプログラムはカンボジアを対象にした1口3万円という比較的お手頃なものだったことも手伝い、短期間で2000万円以上が集まったとされています。

そして、若者主体で早期にファンド組成を成し遂げた背景には、次のように理由があったようです。

  • それまでの日本には、小口投資が可能な途上国を対象にしたMicrofinanceがなかった
  • 若者にとって近寄りがたいイメージの「金融商品」の枠をはみ出す、目新しさがあった
  • 世界で問題になっている事象(貧困)の解決に、直接自分が携われる意義を感じられた
  • 街角で行われている募金や寄付という古いイメージとは異なる斬新さがあった

多くの日本人にとって「金融」「投資」「ファイナンス」といえば、富裕層や一部の人だけのものというイメージが先行しがちですし、ましてや「貧困層」の三文字は他国のこと……というイメージをもっている人が多いのも事実。しかし、金融危機、不況、リストラ、倒産、病気、自然災害、離婚、シングルマザー、母子家庭、ワーキングプア、低所得の若者、老後の無年金者など、様々な要因によって生活苦にあえぐ人々は多く存在します。そして、「担保のない貧しい人々に銀行はお金を貸さない」が私たちの常識にもなっています。
大手証券会社の大和証券が2009年にMicrofinanceに参入していることからも、弱者救済の道筋となるMicrofinanceに今後期待がかかりますが、残念なことにMicrofinanceの名を騙り、高利をむさぼる悪徳業者が存在することも事実。融資・応募を行う際はきちんと調べて、行動を起こすようにしたいものです。

≪記事作成ライター:岩城枝美≫
東京在住。大手情報サービス企業を退社後フリーランスに。二十年余にわたり、あらゆるジャンルの取材・執筆、ディレクションに携わる。

【転載元】
日本クラウド証券株式会社 https://crowdbank.jp
日本クラウド証券メディア マネセツ
https://manesetsu.jp

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