VC・CVCからの資金調達を成功させるために必要な基礎知識
はじめに
エクイティファイナンスの資金調達先としてVCやCVCを思い浮かべる方は多いかと思います。出資者であるVCやCVCについて基本的な知識を持つことは資金調達を成功に導き、会社を成長させることに繋がります。
VCやCVCとはどのような存在なのか。その特徴や資金調達の際の留意点について解説します。
VCとは
VCの定義
ベンチャーキャピタル(VC)とは、主に高い成長率を有する未上場企業に対して出資を行う投資会社を指します。投資先企業のIPO(株式公開)やM&Aによる売却によりキャピタルゲイン(投資額と売却額との差額)を獲得することを目的としています。
コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は、投資を本業としない事業会社(または当該事業会社を母体とするファンド)のことを指します。CVCはVCの一種ですが、金銭的なリターンだけでなく、本業との相乗効果や、ベンチャー企業が保有する技術・アイデア等の活用によるオープンイノベーションを目的としている点がVCとの違いになります。
VCのビジネスモデル
①ファンド組成
出資者となる機関投資家や事業会社を探し、資金を集め、ファンドを組成します。
組合(ファンド)は運用主体であるGP(ジェネラル・パートナー:無限責任組合員)とファンドの出資者となるLP(リミテッド・パートナー:有限責任組合員)により構成されます。ファンドには償還期限が定められており、一般的に償還期限は10年間に定められることが多いです。
②ソーシング
集めた資金を投資するための投資先を探します(ソーシング)。
VCが投資先を探すために、ピッチイベントへの参加や知人の紹介等によりアプローチをすることもあれば、出資を受けたいベンチャー企業等からVCに事業計画を送付する、または直接持ち込んでプレゼンテーションを行うケースもあります。
③投資の実行
投資先について調査分析が行われ最終的に投資委員会にて投資の意思決定を行い、投資契約書を締結し投資が実行されます。投資の意思決定の前に外部の専門家によるデューデリジェンスが行われるケースもあります。
投資の形態は様々であり、普通株式のほか優先株式や新株予約権付社債(CB)による出資が行われるケースもあります。
また、VCの投資は一般的に投資条件として、投資契約書に様々な条項が付されることがあります。投資契約書の締結の際には適切な専門家を関与させることが、不利な条件や後々の紛争、ひいては資金調達そのものの失敗を避けるポイントとなります。
④投資先に対する経営支援
投資による資金的な支援にとどまらず、投資先に対して様々な経営支援を行います。経営支援の例としては、経営全般に対するアドバイス、取締役会や経営会議への参加、取引先・提携先の紹介や人材紹介等が挙げられます。
なお経営支援をどのような形式でどの領域にどの程度実施するかは各VCにより異なり、また必ず支援が行われるとは限りません。
⑤投資の回収、分配
ファンドへの出資者に対して資金の分配を行うために主にIPOやM&Aにより、投資した資金を回収します。IPOやM&Aが難しい場合、投資契約書に基づいた金額で投資先に株式を買戻してもらい資金回収するケースもあります。
回収した資金から出資者に分配を行い、手元に残った資金がVCの取り分となります。
VCのビジネスの特徴
①ハイリスクハイリターン
近年、日本の年間IPO件数は90社~100社前後で推移しており、IPOによるExit(保有株式の売却)は極めて狭き門と言えます。また、日本のM&Aの件数は年々増加傾向にあるものの、必ずしもVCが期待したとおりのキャピタルゲインを得られるような取引になるとは限りません。VCの投資先の多くは期待したリターンが得られずに終わると言われていますが、数少ない成功事例がVC全体の経営を救うというケースもあり、仮に10社の投資先のうち9社の投資回収が失敗あるいは不十分だったとしても、残る1社で莫大な利益を獲得できれば、ビジネスとしては成功という世界になります。
②分散投資
上述のとおり、VCのビジネスモデルはハイリスクハイリターンであるため、リスク分散のために複数の投資先に分散投資を行います。将来有望なベンチャー企業を発掘(ソーシング)することがVCにとって重要になります。
③投資回収期間が10年程度の長期にわたる
先述のとおり、一般的にファンドの償還期限は10年間になることが多く、長期的な目線での事業運営がなされる点が特徴となります。
分類(属性)
VCの出資母体により主に以下の分類に分けることができます。
なお、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会「国内スタートアップ資金調達動向と日本ベンチャーキャピタリスト協会の動向」によると、2018年のVC投資額の内訳は、33%が銀行系、27%が独立系、13%がCVC、12%が海外系、6%が政府系、10%がその他となっています。
①独立系
系列の親会社を持たず、独自に集めた資本で運用しているVCです。キャピタルゲインの獲得を目的としています。
出資母体がないため自社独自の判断で投資先企業を決定することができ、VCにより様々な特徴があります。シード期の企業に重点的に出資をするところや、特定の業界への出資を得意とするところ、レイター期の企業に比較的大型の資金を投資するところなど独自の出資方針をもっているという特徴があります。
②金融機関系
メガバンクや地銀、保険会社、証券会社等の金融機関が出資母体のVCです。金融機関が出資母体のためミドルやレイターフェーズの投資先に対して、多額の出資を行う傾向があります。また経営にあまり関与しないハンズオフ型の投資が多いことも特徴です。
また金融機関の独自のネットワークを活かした事業提携や事業支援が期待でき、将来的に融資などで系列金融機関との取引が増えることが想定されます。
③政府系・大学系
政府や大学等の公的な機関を出資母体としているVCです。政府系は公益性の高い事業に対して投資を行うため、国内企業の産業強化やグローバル化推進、技術支援などを目的としています。大学系VCは主に学内での研究内容を事業化することを目的としています。
④CVC
事業会社を出資母体としたVCです。キャピタルゲインの獲得のみならず、自社事業とのシナジー効果により事業力を強められる出資先を探すことやオープンイノベーションを目的としています。
⑤海外系
海外を本拠地とするVCであり、一般的に運営しているファンドの規模が大きく投資先も世界各地にわたるため、投資額が日本のVCに比べ大きくなる傾向があります。
VCから出資を受けるメリット・デメリット
VCから出資を受けるメリットとしては、
- 様々な経営支援(経営に関するアドバイスや顧客の紹介等)が受けられる
- 会社のフェーズ(シードからレイターまで)に合わせた必要金額を調達できる
- VCからの資金調達による会社の信用度・知名度の向上
などが挙げられます。
一方デメリットとしては、
- 出資(資金調達)までに時間がかかる(デューデリジェンスから投資委員会による承認、投資の実行までに数ヶ月を要する場合もある)
- 経営意思決定に干渉を受ける(自由な経営が出来なくなる)可能性がある
- 事業が当初の想定どおりに進捗せずIPOやM&Aが成立しない場合、(経営が厳しいにもかかわらず)自社株の買戻しを求められることがある
などが挙げられます。
VCから出資を受ける際の留意点
①ファンドの規模や期間
先述のとおりVCのビジネスの性質上、分散投資が行われます。例えば、ファンドの総額が30億円のところに20億円の資金調達の相談をしても交渉は難しくなることが想定されます。また、シリーズAと同じ調達先からシリーズB以降も調達したい場合、それ相応のファンドサイズが必要となります。今回及び将来に調達したい金額とVCのファンドサイズを考慮に入れる必要があります。
また、ファンドの償還期限は10年間に定められることが多いため、ファンドが設立されてから何年目になるのかも確認する必要があります。IPOのスケジュールが伸びて、想定していた時期にExitができなくなった場合にトラブルになることを避けるためです。
②経営への関与度合い
経営への関与度合いはVCにより異なります。VCに対して何を期待するのかを明確にしたうえで資金調達の相談・交渉に臨むことが必要になります。「期待していたほど経営に関するアドバイスをもらえなかった」「営業協力や人材の紹介などに非協力的であった」「経営方針にいちいち口を出してくるためスピード感が損なわれる」などのトラブルを避けるためです。
③自社の経営方針やビジョンへの共感
不確実性が高いベンチャー企業の経営において、不測の事態というものは起こり得るものです。また、変化の激しい昨今において、将来確実に成長するビジネスかどうか、ベテランのベンチャーキャピタリストでも的確にジャッジすることは難しいでしょう。
こういった不確実性が高い経営環境の中でも共に前を向いて一緒にやっていける相手なのかを判断する必要があります。その際に、1つの判断材料となるのが、自社の経営方針やビジョンに共感してくれているか?という点です。共感度の高いVCであれば、仮に苦境に立たされた場面であっても協力的に手を差し伸べてくれることが多いです。一方で共感度の低いVCは会社を成長させるためのアグレッシブな意思決定に対して反対をする、会社の経営が芳しくないときに自分たちの資金回収ばかりを優先するといった可能性も否定できません。
おわりに
VC・CVCと一括りに言っても特徴は様々ですが、多額の資金が動き、外部株主として自社の経営に参画するという点は共通します。一方で、ベンチャー投資において1つとして同じ状況の投資案件というものは存在しません。
VC・CVCからの資金調達は会社としての一大イベントとなりますので、本記事でご紹介した一般的な内容を理解したうえで、周囲の経営者仲間や各種専門家などベンチャー経営やベンチャーファイナンスに明るい人材に相談をしながら、慎重に事を進めていくことが資金調達を成功させる鍵となります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
企業価値、株価算定等についてのご相談は、以下からお気軽にお問い合わせください。