資金調達と金融機関が決算書を見るときのポイントとは
はじめに
会社が金融機関から資金を調達する際、通常は決算書(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書)を提出するように言われます。では、金融機関は決算書のどこを確認しているのでしょうか。ここでは、著者が過去に金融機関で融資を担当していた経験から、金融機関が決算書を見るときのポイントをお伝えいたします。
決算書を見るときのポイント
【貸借対照表】
●流動資産
仮払金や役員・関係者等への貸付金は資金が何に使用されたかわからない場合に仮勘定として使用されることがある勘定科目です。金融機関は融資したお金が転貸(又貸し)されたり、コンプライアンスに抵触するようなことに使用されたりすることを嫌います。そのため、仮払金はしっかりと適切な勘定科目に処理しましょう。役員・関係者等への貸付金は少額であれば立替金にできることもありますが、それには限度があります。会計処理で何とかできるものではありませんので、日頃から資金管理をしっかり行う必要があります。
売掛金と棚卸在庫については、事業規模と比べて極端に金額が大きい場合に内容を聞かれる可能性があります。売掛金の中に不良債権がある場合や、棚卸在庫に不良在庫がある場合は、その分純資産が簿価からマイナスして査定されます。
また、場合によっては架空売り上げの計上や在庫調整などによる利益操作を疑われるかもしれません。きちんと現状を把握して、なぜそのような数値になっているのかを金融機関にしっかり説明できるようにしておきましょう。
●固定資産
通常、固定資産の購入目的は売上の増加や業務効率を良くすることにあります。つまり、将来利益を上げるために固定資産を購入していると言い換えることができます。固定資産が多く融資の返済が厳しいということは、融資金が効果的に使われていないと判断されてしまうため、新規融資の審査に悪影響を及ぼすことがあります。
●繰延資産
繰延資産は会計上、計上できる範囲が限定されています。損益をよく見せようとして、経費を繰延資産に計上するような実態を表していないものはマイナスポイントになります。
また、繰延資産は資産とはいえ換金できるものではないので、純資産の計算上マイナスになることがあります。これは長期前払費用も同様です。
●負債の部
金融機関は会社に対してどこまで融資できるかという与信枠を設定しています。借入金が多いと与信枠が減少するため追加で融資を受けにくくなります。
また、役員借入金や役員に対する未払金はその名の通り役員からの借金を意味していますが、実質的な負債と考えないこともあります。これは法個人一体という考え方が金融機関にあるためであり、与信枠に対しても影響がない負債になります。
●純資産の部
債務超過、すなわち純資産の部がマイナスだと、融資を受けることはできないといわれることもあるほど金融機関は純資産の部を重視します。従って、債務超過はできるだけ回避しなければなりません。しかし、現実には借入を申し込む人は債務超過となっていることもあります。
融資担当者は、そのような会社に対し、融資をすれば業績が改善し債務超過を解消できると判断できれば、会社の強みや業績見通しを丁寧に意見書にするなど何とかして融資の稟議を通そうとしてくれます。
スコアリング(財務データによる格付)だけで融資の可否を判断するのであれば、融資担当者はいなくても同じということになります。金融機関の担当者とコミュニケーションをとり会社の情報を細かく伝えることで、担当者に良い印象を与えることができ、融資が決まるように働きかけてくれます。
債務超過とは逆に純資産の部を厚くすると融資は決まりやすくなります。出資などもありますが、それらを除けば毎期きちんと利益を出す以外にありません。従って、節税目的により過度に利益を圧縮することは税務リスクを伴うだけでなく、融資判断の点からもマイナスとなります。
【損益計算書】
金融機関は、融資したお金がきちんと返済されるのかというのが一番の関心事項です。それをどこで判断するかというと、「税引後利益+減価償却費」が毎期の返済額を上回っているかどうかになります。金融機関によって融資の判断基準は少しずつ違いますが、例えば、新しく固定資産を購入するために借入をする場合は、その固定資産を購入したことにより生み出される利益と減価償却費の合計が新規融資の毎期の返済額を上回ることを伝えることで融資は決裁になりやすくなります。
なお、融資の合計額が「税引後利益+減価償却費」の10倍を超えると融資決裁が出にくくなることがあります。これは、「税引後利益+減価償却費」を毎期の返済額と見立ててその10倍(10年分の返済額)を超えると金融機関内部の融資先管理区分(債務者区分と言います)が悪くなってしまう場合があるためです。
その他では、前期比で著しく増減している科目や、原価率、在庫の回転期間など指標に大きな変動がある場合は金融機関からその理由の説明を求められることが考えられますので、状況をしっかりと整理しておく必要があります。
なお、税引後で赤字が2期続くと融資は決まりづらくなることがあると言われています。しかし、赤字の理由が固定資産の売却や退職金など一時的な支出が原因であることを説明できれば、金融機関も納得し今までと変わらない取引を続けてくれることがあります。そのため、決算書の数字がよくない時ほど金融機関の担当者とのコミュニケーションは大切になります。
終わりに
金融機関の担当者は融資をする際、特に3点のことを気にします。①融資したお金の回収可能性(返済能力)、②融資先に何かあったときの回収可能性(担保評価)、③融資したお金の使い道(資金使途)です。従って、この3点に問題がないのであれば融資は決裁になる確率が高くなります
上記の3点を判断する重要な情報として使用されるのが決算書です。決算書は企業の財政状態・経営成績を表した書類ですが、金融機関が確認するポイントを意識した上で経営を行ってゆく必要があります。
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