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【第4回 工藤崇のFP-Solution】来たる2019年は「てづくり」遺言元年?

来たる2019年は「てづくり」遺言元年?

「飛ぶ鳥跡を濁さず」という諺があります。これは相続にも言えること。懸命に努力をして、自分が亡くなったあとも家族が住み続けることの出来る自宅や、当面の生活原資にすることが出来る生命保険金を生み出すことが出来た寿命を迎える方がいます。
相続において、財産を残して亡くなる方のことを「被相続人」といいます。

ただ、それまで仲の良かった家族が遺されたお金の所有を巡って諍いを起こすことを、望んで亡くなる被相続人はいません。とはいえ、亡くなったあとに「家族兄弟仲良くしなさい」と伝えることはできません。そこで相続や終活(エンディング)の世界で専門家を介し勧められているのが「遺言」を書くことです。


1、遺言は「財産の分け方」だけではない

遺言と聞くと、歴史を感じさせる木造造の母屋で、家族全員が集結して封筒を開くイメージが強いのではないでしょうか。それは火曜サスペンス劇場の影響としても、実際に遺言を「財産の分け方を記した書類」と定義している方も多いです。それは間違いではありませんが、100%でもありません。

遺言には、被相続人になる方(遺言を書く時点では亡くなっていません)の希望する財産分割の内訳のほか、遺言を読むであろう人たちに向けたメッセージを記載することができます。「自分が亡くなっても皆で仲良くね」といった家族全体に向けた言葉から、長男へ、次男へといった各々の家族に向けたメッセージを書く場合も。遺言においてこれらは「付言(ふげん)事項」と呼ばれ、財産分割のような法的拘束力は持たないものの、相続において大きな効果を持つといわれています。

まさに、争族を避けるには付言事項が大切。相続が揉めるポイントが、財産の分与額より心理的な部分が強いことを伺わせます。

まさに、相続のトラブルを起こすとはいえ、元々はとても近い家族同士。各々に向けたメッセージが、相続額の金額が異なることなどに対して、「まあ、お父さんが頑張って貯めた資産だから、家族で仲良く生きていこう」となるきっかけになるかもしれません。


2、来たる2019年は「てづくり」遺言元年?

ただ、「まだ自分は元気なので、遺言作成など考えられない」という人にとっては、公的遺言はもちろんのこと、よりフランクなエンディングノートさえも抵抗感の強いものではないでしょうか。以前は高齢者とされていた年齢に差し掛かっても元気いっぱいの方が多いのは、とても素晴らしいことです。

ただ、「まだまだ終活は先の話」という流れは、2019年に変わっていくかもしれません。

現在、手書きで書く遺言は自筆証書遺言といい、すべて自筆(手書き)で書くことが必須です。来年1月13日、このうち、どれだけ財産を所有しているかを記載する部分。いわゆる「財産目録」に関して、パソコンなど活字で作成したものが認められるようになります。

注意したいのは、「〇〇に××を相続する」という基本的な部分は手書きのみであることは変わりません。ただ見方を変えると、日頃から作成しておいた財産目録に手書きの部分を加える「だけ」で、公的遺言が作成できるようになるということ。

かつ、これまでは作成者が自主的に管理をしなければならなかった遺言を、2020年7月までに法務局に預けられるようになるということも決まっています。現在、証人をつけたうえで法務局で作成する遺言は「公正証書遺言」と呼ばれ、より信頼性の高いものとして位置づけられています。作成費用も自筆証書遺言に比べて高いものでした。預託制度の始まった後は、現在のような両者の違いはなく、「遺言=法務局に預けるもの」として認識されていくことでしょう。

活字での財産目録が認められる2019年は、「てづくり」遺言元年として認識されていくことでしょう。


3、終活はポジティブなものに変わるか

終活、特に亡くなったときに資産をどのように承継するかは、これからの家計にとって大きなテーマになります。先般、認知症の方が所有している資産が140兆円を超えるという民間シンクタンクの調査結果が報じられ、大きな話題となりました。

現在、多くの方が70歳、80歳になり、亡くなることが想定のなかに入ってきてはじめて、「相続」のことを考えるようになるといわれています。しかし、相続に向けて不動産を見直すとしても、相続税対策をするとしても、それでは遅い。かつ先ほどの140兆円という統計は、相続に本格的に取り組む前に「第一歩」として、その時に可能な動きをすることの重要性を謳っています。

このように相続、広義的に見れば終活の印象が変わることは、亡くなった後に遡及して対応できない相続対策をポジティブなものに変えていくのではないでしょうか。現在、親と子どもが資産の共有して相続対策を組み立てるのを「難しい」と指摘する意見は多いです。

そのはじめの一歩に、てづくり感の増す公的遺言が寄与することを願います。


【プロフィール】
工藤 崇
FP-MYS代表取締役社長CEO。1982年北海道生まれ。相続×Fintechプラットフォーム「レタプラ」開発・運営。資格学校勤務後不動産会社、建築会社を経て2015年FP事務所を設立。1年後の2016年7月に法人化。多数の執筆のほか、Fintech関連のセミナー講師実績を有する現役の独立型ファイナンシャルプランナー(FP)として活動中。スタートアップ経営者としてシードラウンドまでの資金調達完了済み。本社は東京都港区虎ノ門。

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