米国不動産による所得税対策の懸念点
富裕層による米国中古不動産投資は、結果的に所得税対策の効果も有することから、以前より注目・利用されています。
ここにきて会計検査院の平成27年度決算検査報告において、「国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費について」という、富裕層による海外中古不動産を利用した所得税対策に待ったをかける内容が報告されています。平成29年度税制改正大綱では、この点はふれられておりませんが、今後の税制改正で対策が行われる可能性があります。
米国の中古不動産投資による所得税対策
米国中古不動産投資による所得税対策は、日米での中古の建物に係る減価償却費の違いを利用して行われています。
ここで減価償却とは、固定資産の使用にともなって、固定資産の経済的価値の減少を、固定資産の耐用年数で費用化して把握するものです。適切な期間損益の計算の必要性から、費用配分の方法として減価償却が行われています。
ではなぜ、減価償却が所得税対策と結びつくのでしょうか。
まず、不動産を購入した場合、取得後、建物の減価償却により費用を計上し課税所得を引き下げることで、納税額を引き下げる効果があります。この効果は、米国不動産に関わらず、国内不動産でも理屈は同様です。
仮に、建物を賃貸して収入を得ている場合、賃貸収入を上回る多額の減価償却を費用として計上することで、不動産所得に損失が生じ、損益通算により総合課税に係る所得税を減少させることができます。
ここで、日本の不動産と米国不動産の評価と見積もりの違いから、建物の減価償却が大きなメリットをもたらすことになります。
日本における不動産の価値は土地にあると考えられています。土地はよほどの事が無い限り、その評価は滅失しないため、融資の担保にも土地がまず検討されています。建物は時の経過と共に価値が減少し無くなってゆくと考えられ、中古の土地付建物の評価額は、土地が70%〜80%で建物が 20%〜30%となり、ほぼ土地の価値となっています。
一方、広大な土地を有する米国では、不動産の価値は日本と逆で、築30年以上でも建物が70%〜80%、土地が 20%〜30%となり、建物により多くの価値があると考えられています。そのため、中古不動産を日本で購入するか、海外で購入するかにより、建物の減価償却費に計上できる金額が大きく異なることになります。
また、減価償却費を計上するにあたり、もう一つの重要な要素として建物の耐用年数があります。中古の建物の耐用年数は、法定耐用年数を経過しているか、していないかで算出方法が異なっています。
1. 法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20%に相当する年数
2. 法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数 (法定耐用年数—経過年数)+経過年数×20%
ここで注目すべきは、木造住宅の日本における法定耐用年数は22年になります。すなわち、22年を超える中古木造住宅は、上記の算式にあてはめると耐用年数が4年になります。
建物の金額比率の高い米国不動産を取得することで、4年で取得に要した金額の70%〜80%を費用計上して回収することができるということになります。
【計算例】
2,500万円(建物2,000万円、土地500万円)の中古不動産を購入
年間家賃収入 150万円
年数 25年
耐用年数 4年
所得税 45%
建物減価償却費 2,000万円÷4年 = 500万円
年間家賃収入150万円 − 建物減価償却費 500万円 = ▲350 万円
所得税ゼロ かつ 給与所得等と上記マイナス分の損益通算が可能
ただし、耐用年数経過後の5年目からは利益が大きく出ることになります。それにしても4年間の節税メリットは大きいといえます。
では、海外中古不動産の売却時の税金はどうなるでしょうか。日本の税制上、不動産の売却時には、売却益に対して譲渡所得税が課せられます。
所有期間5年超の場合 長期譲渡所得20%(復興特別所得税2.1%)
所有期間5年以下の場合 短期譲渡所得39%(復興特別所得税2.1%)
米国不動産は、米国と日本でそれぞれ申告を行う必要がありますが、二重課税を避けるために、外国税額控除という制度が適用されることなります。すなわち、海外での納税額 — 日本での納税額 = 実質納税額となります。
まとめ
このような効果があるため、米国の中古不動産投資は、富裕層による所得税の対策に活用されています。会計検査院の検査報告のまとめにも
「国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合してないおそれがあると認められる。(略)今後、財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。本院としては、中古の建物に係る減価償却費について、引続き注視していくこととする。」とまとめられています。
米国中古不動産投資の今後の税制改正の動向に注目して頂きたいと思います。