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VC、CVCについて、その種類、特徴、メリット・デメリットを紹介(後編)

camera_alt 寄稿者 Dmitry Demidovich さん

はじめに

一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が、2023年に本組織に加盟するVC(ベンチャーキャピタル)ならびにCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)に対して、投資方針に関するアンケートを実施しました。

その結果、投資金額を「増やす」と回答した企業は全体の31.5%、「今まで通り」と回答した企業は58.4%と、昨年に続き、約9割の会員が今後の投資方針について「現状維持または増加」という回答結果になっています。

このようにスタートアップやベンチャー企業へのVC及びCVCからの投資は今後も継続して行われていく様子がアンケートからもしっかり読み取れます。

参照先:一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会/プレリリース

ではそもそもVC及びCVCとは一体どのような組織なのでしょうか?

またその投資の目的は何でしょう?

本記事(後編)では、主にCVCについて、前編・中編に続き、CVCの仕組み、VCとの違い、CVCを活用する際のメリット・デメリットを出資する側、出資を受ける側に分けて詳しく紹介します。

CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)とは

CVCとは、Corporate Venture Capitalの頭文字を取った言葉であり、VC(ベンチャーキャピタル)の一つの形態です。

CVCでは、事業会社が資金拠出した事業会社子会社やCVCファンドを通じて、社外の新興企業(ベンチャーやスタートアップ)に対して投資を行い、その流れを通じて事業会社とベンチャー企業が長期に渡って連携していきます。

CVCでは、投資を行う事業会社と事業領域が重なっていたり、あるいはシナジー効果が期待できたりするベンチャーやスタートアップに対して投資を行うのが基本です。

またCVCにおいては、出資は設立母体の親会社1社単独で行うこともあれば、他社に声を掛けて複数の事業会社で共同出資することもあります。

以下の図は事業会社1社単独で子会社を通じて複数のベンチャー企業に対して投資する際のCVCのイメージです。

フリー素材提供元:いらすとや(CVCの仕組みは当社作成)

CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)とVCの違い

これまでに解説してきたようにCVCはVCの一種で、ベンチャー・スタートアップ等の未上場企業に投資を行う点では機能は同じです。

一方で両者にはいくつかの点で違いもあります。

本章では2つの点からその違いを解説します。

出資目的や獲得成果が違う

CVCとVCの違いのひとつは出資目的が違う点です。

CVCでは、事業会社がベンチャー企業等とシナジー(相乗効果)を生み出すことを目的に出資を行います。

一方VCにおいては、機関投資家、事業会社、個人等が資金を出し合ってファンドを組成、その資金をベンチャー企業等に投資して、最終的に企業が成長してIPOやM&Aする際に保有していた株式を売却して利益を獲得することを目的としています。

また獲得成果の点でも両者には違いが見られます。

CVCでは、財務的リターンも投資目的とするものの、それ以外に事業の成長やシナジーにも注目しており、最終的にはビジネスを構築して共同で売上を伸ばすとか、原価の圧縮や技術転用等も目的にしています。

一方VCでは、財務的リターンを獲得成果とする先が大半です。

VCはCVCより投資先の幅は広いものの、無定見に全てのベンチャーやスタートアップに投資しているわけではありません。

VCの最終目的は株式売却益の確保なので、あくまで投資の際には、企業の事業内容等、成功の可能性を見極めて投資判断します。

そのため、VCはシードやアーリーだけでなく、エクスパンションやレイターの投資ステージにある企業にも積極的に投資を行っています。

資金調達の範囲が違う

CVCとVCの違いは資金調達の範囲にも表われます。

CVCは事業会社がベンチャー企業等とシナジーを生み出すことを目的として設立されるため、出資も自社の資金から行われることが多いです。

仮に複数の事業会社でCVCが設立されるとしても、事業会社間では何らかの提携関係が構築されていることがよくあります。

一方VCでは、事業会社以外にも金融機関や機関投資家、個人の投資家からも資金調達を行っています。

一般的に、CVCに比べてVCは資金調達先が多いのが特徴です。

CVC側のメリット・デメリット

本章ではCVCを作る側のメリット・デメリットについて解説します。

メリット

CVCを作る側の主なメリットは以下の3つです。

自前主義を脱却してオープンイノベーションを促進できる

近年は顧客ニーズも多様化しており、大企業といっても全ての顧客ニーズをくみ取った開発を行うことは困難になってきています。

新技術や市場変化に対応した自前主義を貫徹するには、大企業でも資金的にも人材的にも無理があるので、それよりCVCを作ってベンチャー企業等への投資を通じて、外部のイノベーションや専門知識を取り込むことの方が効果的です。

そうすることで事業会社は、製品開発期間の短縮、新しい製品・サービス・市場の開拓等にもつなげることができるようになります。

早期段階から有望ベンチャーと連携協力できる

事業会社はCVCによる投資を通じて、早い段階から将来性が期待できる有望ベンチャーと接点を持ち連携協力できる体制が構築できます。

有望ベンチャーと密接な関係が構築できれば、双方向の密な情報交換や事業協力が可能となり、事業シナジーの最大化にもつなげられるようになります。

新市場への参入や新規事業立ち上げのリスクを軽減できる

一般的に事業会社が自前で新市場へ参入したり新規事業を立ち上げようとしたりすると、多額の費用やそれに費やす時間と手間がかかります。

一方でCVCによる投資を通じてベンチャー等と連携できれば、投資先に新規事業のアイデアや技術の評価、市場での受容性等を確認検証してもらえるので、自社単独で投資をしてビジネスを行うより投下資金を少なくかつリスクヘッジできます。

新規事業立ち上げに伴う資金や時間の浪費を抑えつつ、市場での成功の可能性を探れるのです。

デメリット

CVCを作る際の主なデメリットや注意点は以下の2つです。

投資の結果が出るまでに時間を要する

事業会社がCVCを通じて投資をした場合には、投資の結果が出るまでに相当の時間を要することが多いです。

半年や1年以内で結果が出ることは少なく、投資したベンチャーやスタートアップが成長したり成功したりするためには数年単位で投資の結果を待つ必要があります。

事業会社が投資した資金が成功してリターンとして戻ってくるには相当の期間が必要であり、その間、投資資金は何年にもわたり拘束されます。

その間、投資した事業会社としても、投資資金が自社の資金繰りに影響しないよう十分な配慮が必要です。

投資の失敗リスクがある

CVCを通じた投資活動は、成功する案件もあれば、不成功に至る案件もあり相応のリスクが伴います。

投資した企業の製品やサービスが市場で受け入れられず成長が止ってしまう場合や、新技術の開発、ビジネスモデルの変化等で投資先の事業が時代遅れになってしまうケースもあります。

いずれもCVCを通じた投資の失敗につながるので、事業会社としては、投資案件に対しては、事前の適切なリスク評価、緻密なデュージェリジェンス、時間を掛けた投資先選定等の十分な対策が必要です。

CVCから出資を受ける側のメリット・デメリット

本章ではCVCから出資を受ける側のメリット・デメリットについて解説します。

メリット

CVCから出資を受ける企業側の主なメリットは以下の3つです。

設立母体の事業会社との関係が強化できる

CVCから出資を受ける企業は、CVCの設立母体である事業会社との連携強化を通じて、ビジネス上の重要な知識や情報の共有化を進めることができます。

その結果、両者の相乗効果から、共同プロジェクトや技術協力が生まれやすくなり、新たなビジネス機会の創出にもつながり効果的です。

会社の認知度が高まり信用力が向上する

CVCを通じて知名度があり信用力に優る事業会社から出資を受けることができれば、投資を受けたベンチャー・スタートアップそのものの信用力も上がります。

これは銀行等の金融機関から融資を受けにくいシード・アーリー段階のベンチャー企業に取っても大きなメリットです。

CVCの出資を通じて業界内での知名度や認知度が上がれば、他の投資家からの追加的投資等も期待でき、それを背景にビジネスモデルの妥当性が評価されれば、さらに市場での競争力も向上することでしょう。

早期の資金調達が実現し市場での立ち上がりを加速できる

大きな事業会社を設立母体に持つCVCは資金力も豊富です。

そのようなCVCから出資が受けられれば、資金力に乏しいベンチャーやスタートアップでも早期の資金調達が可能となり、それをバックにいち早く市場での立ち上がりを加速できます。

ビジネスアイデアを具体的に実現していち早く市場投入できることは、競合する他社に対して優位に立てるので、成功への可能性を引き上げることにもつながります。

またCVCからの出資は、投資による調達に該当するので、融資による調達のような定期的な返済義務を負いません。

これもまた出資を受けた事業側にとって、返済を気にせず事業に専念できるメリットといえます。

デメリット

一方、CVCから出資を受けた企業側が受けるデメリットや注意点は以下の3つとなります。

CVCの設立母体企業の色に染まりやすい

CVCから出資を受ける企業が気をつけたい点は、出資後にCVCの設立母体である事業会社の経営風土に染まりやすい点です。

ベンチャーやスタートアップはまだ企業として未熟で経営風土も十分固まっていない状況なので、経営の多くをCVCの設立母体である事業会社に頼ってしまうと、大企業の影響をもろに受けて、ベンチャー企業等の独自性やオリジナルなアイデアに悪い影響を受けてしまうリスクがあります。

それでは本来ベンチャーやスタートアップの持つ柔軟性、革新的な発想の妨げになるので、CVCから出資を受ける際には、あくまで新興企業としての独立性を維持し、かつ設立母体とのバランスも考慮した経営への配慮が必要です。

経営の自由度が低下するリスクがある

CVCから出資を受ける際には、受ける側として、事業会社の企業風土に過度に染まらない点に気をつける以外にも、事業会社から自社の経営及び事業方針に過度に介入されて、経営の自由度を失わないよう、十分注意しておかなければなりません。

もちろんCVCが投資をしているからといって、常にベンチャーの経営に意見できる権利がCVCにあるわけではありません。

ベンチャーやスタートアップの経営の責任主体は、あくまでその会社の経営者及び経営幹部です。

もちろんCVCからの意見聴取も大切ですが、事業結果の最終責任はベンチャー企業そのものが負うので、出資を受ける側として、経営の自由度を確保しつつ、かつ事業会社とのシナジーが高められるよう、バランスを取った経営を遂行していく必要があります。

競合他社とのビジネスに制約を受ける

CVCから出資を受ける側のデメリットとして、競合他社とのビジネスに制約を受ける点も上げられます。

たとえばCVCの出資元の事業会社が、出資を受けたスタートアップの属する業界や市場での競合他社となっていた場合、スタートアップとしては他の競合他社とビジネスすることを制限される可能性が生じます。

また出資を受けた企業の取引先がCVC出資元の競合先であった場合にも、利益相反問題や情報の共有制限を受けるリスクがあります。

このようにCVCから出資を受ける際には、ベンチャー・スタートアップとして事業展開やパートナーシップに制限を受けないような出資相手を慎重に選ぶ必要があります。

おわりに

本記事(後編)では、CVCについて、CVCの仕組み、VCとの違い、CVCを活用する際のメリット・デメリットなど、詳しく解説しました。

創業前のスタートアップや起業直後のベンチャー等、資金力や信用力に乏しい新興企業にとって、VCやCVCは出資による資金調達だけでなく、弱い信用力を補完してくれる頼もしい存在です。

VCやCVCから出資を受けることができれば、資金面を気にすることなく、事業の展開に傾注でき、事業としての立ち上がりも早く展開できます。

一方で出資に伴うデメリットもあるので、出資を受ける側としては、メリット・デメリット双方に配慮してバランスの取れた経営を行う必要があります。

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