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資本政策における具体的な手法とは(前編)

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_Pickadookさん

はじめに

資本政策とは、資金調達等において、会社が株式発行や売却で集める資本と、資本の出資者である株主の構成割合をどうするか、計画及び検討することをいいます。

特に将来、株式上場を目的としてIPO(株式公開)を行ったり、あるいはM&Aで会社・事業を売却したりするつもりなら、経営者は会社の将来を見据え、より綿密な資本政策を立てておくことが必要です。

資本政策においては活用できる具体的な手法が様々あります。

また手法を導入する際には色々な面に配慮が必要です。

本記事においては、資本政策における具体的な手法について、前編、中編、後編の3編に分けて、その内容や目的、導入時の注意点など解説します。

まずは前編では資本政策の手法の種類と各々の概要です。

資本政策の手法の種類とその概要

資本政策の具体的手法としては主に以下の9つがあります。

・株式移動

・株主割当増資

・第三者割当増資

・種類株式の発行

・株式分割

・新株予約権の発行(ストックオプション)

・自己株式取得及び処分(売却)

・従業員持株会

・新株予約権付社債(ワラント債)

以下で各々の概要について解説します。

株式移動

株式移動とは、株主が所有している株式を、他の個人または法人に対して譲渡もしくは贈与する際、用いる方法です。

資本政策上は、株主構成を是正する、あるいは特定の者との関係を強化する目的で行われます。

たとえば、資産管理会社を設立して会社オーナーが保有する株式を移動させたり、オーナー一族に株式を集中させたりするときに利用されます。

株式移動のやり方には売買または贈与があるので、資金面や税金等を考慮して、売買及び贈与のどちらを採用するか、あるいは両者を併用するか等の判断が必要です。

その際、移動価額が適正な価額でないと税務当局に判断されると、追加的な税負担が生じますので、実行前には会計士・税理士等の専門家のアドバイスを受けておくようにしましょう。

株主割当増資

株主割当増資とは、既存株主の持株比率に応じて、株主に新株を引き受ける権利を付与し、有償で新株を発行する方法です。

資本政策上は株主構成を維持しつつ、事業資金を調達する目的に利用されます。

特に、創業時、事業の初期段階等では、事業実績も乏しく銀行からの融資が受けられないことも多く、株主割当増資は資金調達の有効な手段となります。

ただし、出資者は既存株主に限定されるため、多額の資金調達は難しいという面もあります。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者に対して、新株を引き受ける権利を付与して有償で新株を発行する方法です。

特定の第三者とは、自社の役員、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタル(VC)、金融機関、取引先など自社と関わりが深い関係者をいい、第三者割当増資を行うことで、資本政策上の関係強化や資金調達を図ります。

第三者割当増資を使うと、株主割当増資と比べ、大規模な資金調達ができるメリットがあります。

一方で、第三者に株式が渡るので、オーナー及び既存株主の持株比率が低下する、会社の意思決定に時間がかかるようになる、配当金が減るなどのデメリットが発生します。

種類株式の発行

種類株式とは、普通株式とは権利内容が異なる株式のことをいいます。

普通株式を持った株主に対しては、会社は株主の権利を制限せず、配当や議決権等を平等に与えます。

一方で、会社が種類株式を発行する際、株式によって与える権利の内容を変更できるので、色々なタイプの種類株式が発行可能です。

たとえば、配当金の額を高く設定して議決権なしの株式を発行したり、残余財産を優先的に分配したりする株式を発行できます。

会社は種類株式を発行することで、投資家のニーズをより満たしやすくなり、様々な目的に使えます。

そのため、事業資金を必要とするベンチャー企業などが活用しやすい発行方式といえます。

種類株式は様々な組み合わせで発行可能なので、投資家のニーズを見据え、かつ会社の状況や目的に沿って適切に発行するようにしましょう。

株式分割

株式分割とは、既存の株式を分割、つまり1株をいくつかに分割して発行済株式数を増加させる手法をいいます。

既存株主に対して平等に無償で行うため、分割後も持株比率や純資産の変動もありません。

そのため、株式分割を行うと、発行済み株式総数と既存株主の持株数を増やせます。

株式分割を使うと、株式総数が増えて、株式の流動性が高められ、さらに株価も下がるため、より多くの投資家が株式購入のチャンスを得ることができるようになります。

また資本政策的には、上場時の株価の割高感を修正したり、上場直前、発行済み株式総数の調整に活用されたりすることもあります。

新株予約権の発行(ストックオプション)

新株予約権とは、一定の期間内に予め会社が決めた株価(行使価格)で株式を購入できる権利のことをいいます。

新株予約権を発行する場合、その目的は、役員や従業員へインセンティブを付与する、特定の人の持株比率を上げる、運営資金を資金調達するなどがあります。このうち、役員や従業員へインセンティブ目的で付与する新株予約権をストックオプションといいます。

新株予約権を与えられた人の利益は、将来権利を行使し、行使価格を払い込み会社から株式を購入し、その購入した株式を売却したときの株価(売却価格)と行使価格(株式の購入価格)の差額となります。そのため、ストックオプションとして新株予約権を発行する場合、発行する時の株価が低く、将来の行使価格を低くできるうちに発行した方が、将来得ることができる利益の期待値が大きくなり有利となります。

また、資金調達において第三者割当増資等で十分な出資が集まらなかった場合、代替手段として新株予約権を発行することもありますが、新株予約権の付与者が権利を行使すると、発行済み株式総数が増加して既存株主の持株比率が低下します。

そのため、資本政策上は、誰に対してどのようなタイミングで新株予約権を発行して付与するか、慎重な判断が必要です。

自己株式取得及び処分(売却)

自己株式の取得は、会社が株式市場を通じて、または株主等から自社株式を買い取る方法です。

過去の発行済み株式を会社が買取りするので、資本政策上は発行済み株式総数を減らすのと同じ効果があります。

そのため、自己株式取得の目的として、株主構成を変える、株価を引き上げる、あるいはM&A・事業承継対策に使うなどに活用されます。

ただし自己株式を取得すると会社の保有現金が減るので、会社の資金繰りが悪化するほか、自己資本比率が下がるなどのリスクがあるので注意が必要です。

一方自己株式の処分(売却)は、上記と逆の方法で、会社が発行済み株式を自社で保有していたものを他者に譲渡(売却)する方法です。

自己株式処分の主な目的として、資金調達の実施、M&Aや業務提携を行う際等に活用されます。

ただし、自己株式の処分により、新たな株主が参入してくる可能性があるため、株主によっては経営に口出ししてくるリスクも生まれ、また上場企業においては株価が下落する要因にもつながるため、株式売却には慎重な判断が必要です。

従業員持株会

従業員持株会の設置も資本政策の具体的手法のひとつです。

ただし、このやり方は、どちらかというと上場企業に適した方法です。

会社に従業員持株会が設置されると、従業員の毎月の給与や賞与から天引きで少額の資金が引き落とされ、その資金で持株会が自社株を購入します。

つまり、従業員持株会は、従業員が持株会に加入すれば、自分で容易に自社株式を取得できる便利な方法なのです。

また、持株会を通じた株式取得では、会社から購入資金に一定の奨励金も支払われるので、従業員は通常の株価で購入するより多く株式を買え、これもまた従業員持株会の利点といえるでしょう。

会社としても従業員に株式を持ってもらうことで、資本政策上の安定株主対策にもなり、双方Win-Winの関係が構築できます。

新株予約権付社債(ワラント債)

資本政策の手法として新株予約権付社債(ワラント債)というのもあります。

新株予約権付社債とは、株式を一定の価格・数量で引き受ける権利を有した証書(ワラント)のついた社債のことをいいます。

この社債の特徴として、ワラント債のワラントと社債部分は別々に売買できます。

新株予約権付社債の発行は主に資金調達に利用され、信用力が比較的低い企業が活用しています。

この社債では新株予約権が付与されている分、通常社債より利息が低くても出資を多く集めることができ、発行企業も発行コストを抑えて資金調達が可能です。

また、新株予約権の行使で資本金の増加も見込めます。

一方、出資する投資家は、新株予約権を行使して株式を購入することで、社債より大きなリターンを狙うこともできます。

おわりに

資本政策における具体的手法(前編)では、資本政策の手法の種類とその概要を、9つの手法に沿って詳しく解説しました。

次回、資本政策における具体的手法(中編)では、各手法の主な目的、手法実行に当っての留意事項など説明します。

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