【ベトナム】波乱の連休、入国の邦人死亡[社会](2021/02/17)
ベトナムのテト(旧正月)休暇期間は、新型コロナウイルスの感染拡大と規制強化で波乱となった。日本から特別便で入国した50代の日本人男性の死亡が首都ハノイで確認され、原因究明が進められている。連休を前に各地で感染者が見つかり、隔離措置の対象者は一時的に15万人を突破。帰省・旅行を控える動きもあったものの、国内線は運航が維持された。旧正月が明けたが、多くの人が移動したことで感染リスクが高まっている。【小故島弘善】
ハノイ疾病管理センター(ハノイCDC)によると、死亡が確認されたのは日系大手商社勤務の50代の日本人男性。1月17日に日本からホーチミン市に渡り、同市内の「イビス」ブランドのホテルで14日間の隔離措置を受けていた。隔離中の2回の検査で陰性となり、2月1日にベトナム航空のVN254便でホーチミン市・タンソンニャット国際空港からハノイ・ノイバイ国際空港に移動。2月上旬はハノイ中心部の会社に出社するなど業務に励んでいたが、13日に自室で死亡しているのが見つかった。
ハノイ疾病管理センターの14日の検査で男性は新型コロナ陽性だったが、死因は同日時点で特定されていない。同センターは報告書で、「男性は14日間の隔離後、17日目(2月3日)に体調不良を訴えていた。ハノイ以外で感染していた可能性が高い」としている。
男性は、4日と8日に2回、タイホー区の病院「ラッフルズメディカルハノイ」に通院していた。8日には発熱の症状があり、インフルエンザ検査ではA型とB型ともに陰性だった。
■現地在住の日本人への感染懸念
死亡した男性は、ハノイではタイホー区のサービスアパート「サマセット・ウエストポイント・ハノイ」に滞在し、勤務先はホアンキエム区の複合ビル「サンレッドリバー」に入居している。同ビル2階のレストラン「東京レッドグリル」、タイホー区のレストラン「八十八商店ハノイ」、バディン区の焼き鳥店「とり吉」を訪れていたことが分かっている。
ハノイ疾病管理センターは◇ホーチミン市のイビスホテル(1月31日)◇VN254便(2月1日午前11時にホーチミン市発、午後1時20分にハノイ着)◇サマセット・ウエストポイント・ハノイ(2月1~13日)◇サンレッドリバーの903号室、東京レッドグリル(2月1~13日)◇八十八商店ハノイ(2月3日=※報告書では2日=午後6~8時)◇ラッフルズメディカルハノイ(4日、8日)◇とり吉(5日午後7~9時)――を訪れていた人への感染リスクがあるとして、保健当局にすぐに連絡するよう緊急通達を出している。
サンレッドリバーには日系企業が集まり、同ビルのアパートには日本人が多く住む。同ビルなど感染リスクがある場所は封鎖されている。これまでに、死亡した男性と同じ企業で働く20代のベトナム人女性と40代の日本人男性が新型コロナ検査で陽性となっている。
保健省によると、14日夕方から16日正午までに同商社の感染者3人との接触者517人からサンプルを採取し、1回目の検査結果は全員が陰性だった。
ハノイでは、16日午前0時から路面の飲食店やカフェなどの営業を停止させる措置が始まった。テト休暇期間が終わり、帰省していた人が市内に戻ってくることもあり、感染リスクが高まっているという。
■市中感染700人以上に
ベトナムは新型コロナ対策の優等生とされてきたが、市中感染も広がっている。1月下旬からの累計は717人。各地の規制強化により隔離対象は一時的に15万人以上となり、16日午後6時時点では12万人強だった。10~16日のテト休暇期間中の市中感染は計238人で、感染拡大に歯止めが掛からない状況だ。
省市別では、13省市で市中感染が確認されている。16日午後6時時点の市中感染者数は、北部ハイズオン省が537人と最も多く、クアンニン省が60人、ホーチミン市が36人、ハノイが35人、中部高原ザーライ省が27人と続く。
ハイズオン省人民委員会は、16日午前0時から15日間、社会隔離措置の厳格な実施を求める首相指示16号(16/CT―TTg)に基づき省全体を封鎖する。同省を通過する国道(5号、18号、38号、38B号、17B号、37号)では、公務など特別な場合や、食料・必需品の輸送、従業員の送迎、原材料輸送などの車両を除き、交通制限が実施される。これまで、チーリン市やカムザン郡で社会隔離が実施されてきたが、封じ込めに苦戦している。
■キャンセル相次ぎ観光業から悲鳴
ベトナム政府は連休前、感染地域から国内移動した人を21日間の隔離措置の対象とする方針を示していた。国民や外国人居住者の間で不安が広がり、国内移動をキャンセルする動きがあった。
南部キエンザン省のリゾート地、フーコック島の観光関係者は「日本人では7割キャンセルが出て、ベトナム人の減りも大きい」と説明した。あるホテルでは、連休中の宿泊の予約のうち6割がキャンセルとなった。
「感染が多い北部などから南部に行き先が変更されることもあったが、厳しいテトとなった」(同関係者)。特に日本人は、会社の命令で旅行ができなくなった人もおり、キャンセルが多かった。欧米系への影響は比較的少なかったという。
タンソンニャット国際空港では、飲食店の営業をテークアウトのみとすることや一部サービスの停止などが実施されたが、医療申告以外で乗客に対する制限が強まることはなかった。ただ、旅行者が不安に駆られ、防疫のため自主的に「防護服」で全身を覆って航空機に乗り込む姿が見られた。
大型イベントが終わったことで、今後は新型コロナの感染抑え込みに向けて規制が強化される可能性がある。ベトナム政府は過去の感染拡大を短期で収束させた実績があるが、国内では感染経路が分からない事例も出ており、不安の中で新年のスタートを切った。