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【タイ】市中感染リスクの拡大に懸念[社会](2020/12/08)

タイ北部チェンライ県と国境を接するミャンマー北東部シャン州タチレクから、正規の国境を通らずに帰国し、新型コロナウイルス感染症対策の隔離措置を受けない「不法帰国者」のタイ人の感染が相次いで確認されている。7日時点で不法帰国者と接触した人を含めた感染者は38人に上り、首都バンコクでも確認され、市中感染の拡大への懸念が強まっている。今月10日からの4連休を前に北部の観光地ではホテルのキャンセルが相次ぎ、首都でも行動追跡アプリの利用を再び促し警戒を強めている。

「チェックインをお願いします」。週末のバンコクの商業施設では、入り口で警備員が行動追跡アプリ「タイ・チャナ(Thai Chana)」を使って入場記録を残すよう促す。同アプリを持っていない人は電話番号などを記帳した。6日にもバンコクで、ミャンマー・タチレクから正規の国境を通らずに帰国したタイ人の感染が確認され、市民の間で警戒心が高まっている。

タイでは市中感染がほぼ収まった5月下旬以降、経路不明の感染者が数人確認されたが、いずれもそこから別の人に感染した形跡はなく、「第2波」は起きていない。タイ政府が、渡航手段を問わず入国・帰国した外国人・タイ人に14日間の隔離措置を課し、ホテルを使った「代替隔離施設(ASQ)」や国の施設に滞在させる厳格なコロナ対策が奏功していた。

ところが、先月28日のタイ保健省の発表で、ミャンマー・タチレクから正規の国境を通らず帰国し隔離を受けていなかった女性の感染が、北部チェンマイ県で確認されたことが判明。女性は同県の商業施設を訪れるなどしたため、大勢の人に感染される「スーパースプレッダー」の可能性が懸念された。

その後、タチレクから同様に帰国した「不法帰国者」の感染が確認されるケースが相次ぎ、保健省によると、7日時点で不法帰国者と接触して陽性となった人を含めて計38人に上っている。

38人が確認された地域別の内訳は、◇チェンライ県が26人◇チェンマイ県が5人◇バンコクが3人◇北部パヤオ県、同ピチット県、中部シンブリ県、西部ラチャブリ県が各1人――となっている。

正規の国境を通らず帰国した人の多くが、タチレクの「1G1―7ホテル」で働いていた。同ホテルは、タチレクとメーサイの国境検問所からおよそ1.5キロメートルの位置にある。バンコクポストによると、客室100室のほか、カジノやカラオケ、パブなどがあり、娯楽施設になっていた。新型コロナの流行前は、タイ人や中国人、ミャンマー人の富裕層や軍人が多く訪れていたという。

タイで新型コロナの感染が相次いで確認されている「不法帰国者」の多くが勤務していたミャンマー・タチレクにある「1G1―7ホテル」(同ホテルのフェイスブックページより)

タイで新型コロナの感染が相次いで確認されている「不法帰国者」の多くが勤務していたミャンマー・タチレクにある「1G1―7ホテル」(同ホテルのフェイスブックページより)

ミャンマーでは新型コロナの感染拡大が続いており、タチレクにも広がったことから、同ホテルは先月24日に閉鎖されたという。タイ人の従業員は帰国し始めたが、14日間の隔離を避けるために正規ルートを通らなかったとされる。同ホテルの周辺では、比較的小さなルアック川が国境となっており、日常的に正規の国境を通らず往来していた人がいるとみられている。

政府の新型コロナウイルス感染症対策センター(CCSA)のタウィーシン報道官は6日、タイチャナを使用することで感染リスクのある人を追跡できるため、第2波の発生を防ぐことができると述べた。6日付バンコクポストによると、アヌティン副首相兼保健相は、第2波は起きないとみているといい、ロックダウンはしないと述べている。

正規の国境を通らず帰国して隔離を免れた人は、発令中の非常事態宣言に違反するとして、罰則が科せられるもよう。またミャンマーでの新型コロナ拡大を受け、二国間の国境は閉鎖されており、ミャンマー在住のタイ人が帰国する場合は、正式な国境であるタイ・ミャンマー第2友好橋を通ることが推奨されている。

商業施設の入り口に設けられた、入退店を記録するアプリ「タイチャナ」用のQRコード=7日、タイ・バンコク(NNA撮影)

商業施設の入り口に設けられた、入退店を記録するアプリ「タイチャナ」用のQRコード=7日、タイ・バンコク(NNA撮影)

■チェンマイでホテルのキャンセル相次ぐ

一方、観光のハイシーズンを迎えていたチェンマイ県では、不法入国者の感染が相次いだことから、宿泊施設の予約キャンセルが広がっている。地元各紙が5日伝えた。

タイ・ホテル協会(THA)北部支部のライアット支部長によると、同県で1,700室以上の予約がキャンセルとなった。とりわけ、学校や大学、シニア層など30~50人程度の団体旅行の予約が取り消しとなっている。

ライアット氏は、12月のホテル稼働率は、前月の60~70%から上昇すると期待されていたという。タイ政府は国内旅行を促すために、祝日を移動して今月10~14日を4連休としていただけに、観光業界は水を差された格好となっている。

会員制交流サイト(SNS)では、「不法帰国者の行動は身勝手で言語道断」とした上で、政府の国境地帯の監視の甘さを指摘する声が広がっている。タイ国内で反体制デモが起きているさなかであったことから、「デモを阻止するためには大規模なバリケードを敷いて警備を強化するのに、国境地帯の検問や警備はおろそかで感染が広がる恐れがある」などと、政府の対応を批判している。

タイ政府は、3月26日に新型コロナ対策のための非常事態宣言を発令。政府がCCSAを設置して権限を集約し、省庁横断的に対策を指揮している。同宣言はこれまで8回延長され、期限は来年1月15日となっている。

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