【カンボジア】商業施設の開発相次ぐ、違法建築の問題も[建設](2019/09/02)
カンボジアの首都プノンペンで商業施設の開発が相次いでいる。国内の経済成長を受けて拡大する中間所得層の需要を取り込もうと、地場・外資の各社が投資を進めている。一方で、建設計画のとん挫や、中国系企業による違法建築といった問題が顕在化し始めている。
地元各紙によると、昨年からプノンペンでは小規模から大規模までの商業施設の開業が続いている。イオンモールの2号店や、地場コングロマリット(複合企業)オーバーシーズ・カンボジア・インベストメント(OCIC、海外柬華投資)の「ザ・オリンピア・モール」を代表格に、小規模では「ザ・パーク」や「ノロモール」などが開業した。
不動産コンサルタント会社CBREカンボジアによると、プノンペンにおける賃貸用店舗の供給面積は、2013年は約10万平方メートル程だったが、18年には30万平方メートルに迫る勢いで増えた。6月末時点でプノンペンには18の商業施設がある。
今年もこの流れは続く見通しで、中国系の不動産開発会社ザ・ワン・モール・マネジメント(カンボジア)は、12月にトンレバサック地区で「ザ・ワン・モール」(面積1万2,000平方メートル)を開業する。3階建てで、衣料品店や飲食店、フィットネスセンターなどを開設する計画だ。
一方、地場のザ・ポイントは、第4四半期(10~12月)にチャムカーモン地区でオフィスとモールの複合施設「ザ・ポイント・コミュニティ・モール」を新装開業する。オフィスの面積は9,200平方メートル、モールは2,200平方メートルで、米コーヒーチェーン大手のスターバックスやイオンが展開するコンビニエンスストア「マックスバリュエクスプレス」などが入居する。
CBREカンボジアでディレクターを務めるジェームス・ホッジ氏はNNAに対し、商業施設の開発が相次ぐ背景について、「拡大する中間所得層による消費の増加が見込め、小売りセクターの成長を押し上げている」と指摘。
商業施設の供給量は現時点で「やや需要を下回っている」と見る一方で、向こう4年にわたり供給が急増する見通しであることから、他店との差別化を狙う必要性が増してくるとの見方を示した。
ホッジ氏はまた、「特に飲食やエンターテインメントの分野は客足が急増している」とも指摘。昨年5月に開業したイオンモール2号店は、室内遊園地やフットサルコートの設置などで体験を売る「コト消費」型の商業施設で人気を集める。年7%の経済成長が続く中で、多様化するライフスタイルの需要に応える施設の開発が求められていきそうだ。
■無許可の建築は「常習的」
商業施設の開発が相次ぐ一方で、進出計画を中止せざるを得なくなった企業も出てきた。マレーシアの百貨店大手パークソン・ホールディングス(PHB)は13年、プノンペンで「パークソン・モール」を開業する計画を表明していた。ところが、建物の引き渡し期限であった16年末を過ぎても建物が完成しなかったことから、昨年11月に開発業者ハッサン(カンボジア)デベロップメントとのリース契約を破棄したと発表。建物はハッサンが引き続き所有し、9階建ての「プノンペン・メガモール」として来年第3四半期(7~9月)に開業する計画が発表されているが、実現性は不透明だ。
違法建築の問題も浮上している。地元紙によると、プノンペン北部トゥールコーク区のクン・ドエウン区長は、同区で中国系企業が建設する「DNCモール」が、建設省から建築許可を取得していなかったとして、工事の中止を命令。正式に許可を取得してから、工事を再開するよう指示している。
ただ、クン・ドエウン氏は、「許可の取得手続きは複雑な上に時間がかかり、着工後に許可を取得するケースは常習的にある」と指摘。こうした建物には安全性に不安が残るとの懸念を示している。
建物の安全性をめぐっては、6月に中国人が多く住む南部シアヌークビル州で中国系企業が建設するビルが崩壊し、28人が死亡。その後、同州ではビルの検査が強化され、複数のビルが安全基準に達していなかったことが発覚するなど、不安は拭えない。
だが、こうした状況下でも、1~7月の建設投資額は、前年同期比40%増の10億米ドル(約1,065億円)と拡大している。国内で商業施設やコンドミニアム(分譲マンション)の建設ラッシュが続く中、政府には建築物に対する一層の管理体制の強化が求められている。(安成志津香)