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シンガポール法人設立のメリット及びデメリット

camera_alt (写真=Vichy Deal/Shutterstock.com)

滞在ビザ取得条件の厳格化及び更新時のハードル

シンガポールは、アジア地域の中でもタックスヘイブンとして知られ、治安も良く、特に東南アジア地域におけるハブとしての立地の良さ等の理由により、日本企業のみならず多くの外国企業がシンガポールを拠点に活動しています。

日本人が海外で就労するためには、当然、当該国における適切な就労ビザの取得の必要性があり、日本人にとって他のアジア諸国と比較し、迅速にかつ簡単に就労ビザの取得が出来ることから、多くの日本人がシンガポールにおいて就労ビザを保有しています。シンガポールの就労ビザはEmployment Pass(通称:EP)と呼ばれ、家族の滞在も認められます(家族にはDependent Pass(通称:DP)が発行されます(なお、DP保有者の就労は原則不可))。就労ビザの取得というと、一般的には日本の大企業等から現地駐在員として派遣される場合を想定しますが、シンガポールにおいては、個人であってもシンガポールに法人を設立することにより自身のEPを取得することが可能です(株主の関係性等一定の制約はあります)。そのため、多くの日本人がシンガポールに法人を設立し(社員が一人・二人等の会社の数が非常に多い)、EPを取得しシンガポールで事業を行っています。当然、シンガポール現地法人及びEP保持者はシンガポールにおいて納税することになるため、シンガポールの国益に貢献することになります。
 
シンガポールは上記のような外国人及び外国企業の納税により支えられており、外国人に対してのビザ発給を厳しくすることは国益には反することになりますが、2016年中頃よりそれまで簡単に取得出来ていたEPの取得及び更新が厳しくなってきています。一回目に取得するEPの有効期限の大半は2年間であり、有効期限内にEP保持者はEPの更新を行う必要がありますが、EP更新時に問題となるケースが増加しています。

EP更新時に問題となりえるケース例

・ シンガポール現地人(永住権保持者は除外)の雇用をしていない
・ シンガポールの現地法人の売り上げが無い、あるいは、著しく低い
・ EP保持者がシンガポール国内に殆ど滞在していない
・ シンガポール現地人、又は、シンガポール現地企業と取引関係が無い

上記の様な事例に該当する場合(現時点では全てでは無い様ですが)、今までは数日あればEPの更新が可能だったものが、MOM(Ministry of Manpower:日本に入国管理局に該当)から上記問題点の指摘及び質問をされたりしており、特に現地人の雇用に関しては現地人の雇用計画の提出を求められたりするようになりました。現在は現地人の雇用計画の提出等きちんとされればEPの更新が認められるケースが多いですが、今後は実際に現地人の雇用をしていないとEPの更新が認められないケースも増加するかと思われます。

今後想定される日系企業のシンガポール進出について

この数年、EPを取得するための基準及び更新するための基準は厳格化の一途をたどっており、シンガポール永住権の申請に関しても同様に厳格化されてきております。特に前述のとおりEP更新時の質問の内容等を考慮すると、シンガポールは外国人の雇用に関して慎重になっており自国民の雇用を促進していく政策を進めていくと考えられます。

シンガポールは税率が低いことで有名で、多くの企業がシンガポールに進出しています。シンガポールの国土は東京23区とほぼ同じで人口も約560万人で、内需だけ見れば決して大きなマーケットを抱えているとは言えません。ただし、シンガポールは税制を巧みに制定し、多くの外国企業が進出し易い環境を整備しています。また、シンガポールはASEAN諸国の中心に位置し、交通の利便性上の優位性もあり、ASEAN諸国で事業展開を考えている日系企業の海外拠点として活用されています。

最近の日系企業のシンガポール進出事例を見ても、日本国内の消費が伸び悩む中、飲食店や小売業の企業が多く進出しています。日本政策金融公庫の「海外展開・事業再編資金(企業活力強化貸付)」から見ても明白ですが、中小企業の海外展開においても日本国内で融資を受けることが出来る等、日系企業の海外展開は今後も増加していくものと考えられます。ただし、進出の際にはこのようなメリット及びデメリットをきちんと把握した上で進出する必要があるのではないかと思います。 

【プロフィール】
織田耕平(日本IFP協会シンガポール 代表取締役)
1980年生まれ。大阪府出身。関西大学社会学部社会学科マスコミュニケーション学専攻卒業。
 大学在学中に休学をし、オーストラリア メルボルンに留学。日本における短大の学位(経営学)を取得し、大阪本社の製造機器メーカーに就職。海外営業部等により東南アジア・オセアニア地区の開拓・マーケティング等行う。金融・法律の道へ志し、証券会社、航空機リース会社にて国際金融、法務等幅広く経験を積み、父親が経営する行政書士事務所の継承のため帰阪。医療、社会福祉、語学を活かして医療法人、社会福祉法人、入管関係のスペシャリストとして幅広く法律業務に従事。2015年4月に家族とともにシンガポールへ移住。日本IFP協会シンガポールを設立し、法人設立・会計・国際金融(不動産・保険等)等の業務を中心に幅広く活動。

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