ホーム > 経営者インタビュー > リーダーズオンライン倶楽部第4回イベント「誰もが知る老舗企業になる為には?」今なお“粋”の文化が色濃く根付く江戸、その中心、銀座で100年以上続く老舗企業がある。時代を超えて受け継ぐべきもの、時代に合わせて変えるべきものは何だろうか。

リーダーズオンライン倶楽部第4回イベント「誰もが知る老舗企業になる為には?」今なお“粋”の文化が色濃く根付く江戸、その中心、銀座で100年以上続く老舗企業がある。時代を超えて受け継ぐべきもの、時代に合わせて変えるべきものは何だろうか。

リーダーズオンライン倶楽部第4回イベントのテーマは「誰もが知る老舗企業になる為には?」。お江戸を代表する老舗企業から、株式会社山本海苔店の第七代目となる山本貴大専務取締役営業本部長と、株式会社木村屋總本店第七代目木村光伯社長をゲストに迎え、パネルディスカッションを行いました。19世紀半ばから100年以上も繁栄し続ける老舗企業は、どこが違うのか。次代の担い手となるお二人から、これまでとこれからの老舗像を語ってもらいました。
(コーディネーター・早川周作・SHGホールディングス株式会社 代表取締役、南青山リーダーズ株式会社 取締役)

“粋”の文化が根付く銀座。その中で“現代流の”正しい情報発信を。

(早川)今日は「誰もが知る老舗企業になる為には?」をテーマにお話を伺っていきます。お二人の会社は、今で創業何年目を迎えられているのですか。

木村 木村屋總本店は1869年創業で、今年で148年目を迎えました。

山本 山本海苔店は1849年創業で、現在168年目にあたります。

(早川)両者ともに100年以上続く、掛け値なしの老舗企業です。長年に渡り代々受け継がれてきたのれんを背負うのは、素晴らしい伝統に誇りを感じると同時に、看板の重みも感じるのではないでしょうか。ご自身が事業継承されてきた中で、良かった点と悪かった点を教えてください。

木村 私の父は次男だったので、社長を引き継ぐ家系ではなかったのです。ところが、急遽社長となり、その結果、私もという流れになりました。だから私自身、自分が木村屋總本店を継ぐ認識はなかったのが正直なところです。とはいえ今のポジションに就かせてもらって何より良かったのは、お隣におられる山本海苔店さんのような老舗企業の仲間ができたことです。
また直系ではないにせよ、木村屋總本店が、自分を育ててくれた会社であることは間違いありません。恩義のある会社を、自分が引き継いで経営に当たらせてもらえることには、心から感謝しています。
一方で、あえて悪かった点を挙げるとすれば、自分でゼロから何かを創り上げていく選択肢がなかったことでしょう。とはいえ、先代が築いてきたものをただ守るだけでは、いずれ衰退は免れません。代々受け継がれてきたバトンを、自分の手でどれだけ磨き、新しく次の世代に渡していくのか。ここにクリエイティブを刺激され、日々やりがいを感じて仕事に取り組んでいます。

(早川)老舗企業の社長さんは、ベンチャー社長との会合などにはあまり出てない印象があります。その理由は何でしょうか。

山本 それは恐らく江戸に定着している“粋”の文化の影響でしょう。“粋”という言葉に込められているのは、“隠された良さ”という意味です。だからスポットが当たるような席にしゃしゃり出ていくのは“決して粋”じゃなく、“野暮”ったいこと。自社の良いところを自分で発信したり、宣伝したりすることを、生粋の江戸っ子は“野暮ってえ”と捉えられるのです。
“粋”の文化をマーケティングに応用するなら、知る人ぞ知る感をお客様に与えることです。知らないやつには買ってもらわなくて結構、上質さを理解してくれるお客様だけが買ってくれればいい。そんな時代が長く続いていました。けれども、その考え方は、選択肢が多い今の時代に通用しません。正しく情報を伝えていく必要性は痛感しています。

(早川)ということは、これからは“野暮”な会社になるのですか。

山本 正しい情報発信自体は、決して野暮ではないと思っています。先日木村さんとも話をして、これからは一緒にどんどん情報を出していこうと決めたばかりです。

木村 先輩についていきます。

お客様の思い出の一部となり、お客様から発信してもらえる企業へ

(早川)ベンチャー企業とは、100社立ち上がったとしても、続いていく会社せいぜい3社ぐらいにとどまります。事業の失敗が原因で寂しい末路に至る経営者を、これまでに数多く見てきました。老舗企業の代表であるお二方から見て、早々と経営が破綻してしまう会社と、長く続く会社の違いはどこにあると思われますか。

木村 事業に失敗したベンチャーの方でも、バイタリティや高いスキル、強い志を持って、再興されている方もおられます。そのように継続性を持って活発に活動されている方は、我々も尊敬し見習うべきだと思っています。

山本 山本海苔の創業期には、同じような海苔屋が日本橋でいくつもできたと聞きます。そんな中でうちが続いてこれた理由を私の父は、各代でその時代にあった海苔の売り方をしてきたからだと言っていました。

(早川)結果的に、それぞれの代で他社との差別化を図り、時代のニーズに合わせた商品を提供してきたわけですね。

木村 私も同じことを考えていました。けれども、最近お客様アンケートでいただいた回答の中に、ハッとさせられるコメントがありました。
「私の母は、木村屋さんのあんぱんが好きでした。だから私も好きになりました。きっと私の娘も好きになるでしょう」。
この言葉に目を開かれる思いがしたのです。時代のニーズに合わせた商品を開発し、提供していく。こうした企業努力は、どこの会社でもやっているはずです。これに長い間続けてきたごほうびのようなものを、当社はお客様から与えられている。つまり、お客様自身が、我々の商品を自分ごととして発信してくださる。その情報伝達力の強さは、広告宣伝やPRでは決して得られないものです。

(早川)流行りのベンチャー企業のように変化に対応するという意識よりもむしろ、守るべきものを守り、代々受け継がれているものを受け継いでいくことが木村屋の強みということですね。

木村 そうですね。現在弊社のメインのお客様は60代、70代の方ですが、そのような方々に「新たにこんな商品を開発しました。新商品のあんぱんは、あんこのこの部分をこだわっています」とアピールしても響きません。それよりも「昭和30年代の銀座ではこのようなことがありましたよね」といった形でお客様の思い出の一部に訴えることで、足を運んでいただけるようなアプローチを考えています。

時代とともに変えるべきこと、時代が移っても変えてはいけないこと

(早川)両企業は伝統のある会社です。それぞれの会社の中で、時代の変化に対応して変えていかなければならないもの、どれだけ環境が変化したとしても変えずに守っていかなければならないものは何だと考えておられますか。

山本 このテーマについて最近よく考えているのですが、自分の中でも答えはまだ出ていません。老舗企業の社長に特有の問題意識であり、ある老舗社長は“変えやすいものは変えてはいけない。逆に変えがたいものほど変えていかねばならない”と答えておられました。例えば、品質を落として値段を下げるのは簡単にできる。けれども、そのような行為を老舗企業はやってはならないと思います。

木村 変えるものと変えないものについて、明確な線引きをする必要はないと私は思います。時代が変われば、求められるものが変わるのは当然のこと。仮に昔ながらの商品を提供するにしても、その発信方法は時代によって変えるべきでしょう。ただし、事業の根幹となる会社の想いは、きちんと形にして残していく必要があると思っています。

(早川)お二方はどのような想いを持って、日々仕事に取り組まれているのでしょうか。

山本 弊社の場合だと、商品の価格自体は高いのです。海苔業界の中では超ハイプライスと言っても決して過言ではありません。しかし、高い値付けは決して利益を多く得るためではなく、良いものをお客様に提供するためです。高値ではあるが薄利でいようと思っています。職人さんの給料も原価であり、これを削らずに薄利を維持することが、お客様や地域に愛され続ける上で大切と考えています。

(早川)お話を伺っていると、ベンチャー企業がなかなか続かないのは、利益追求型が多いからのように思えてきます。老舗企業が利益率を低く設定するのは、お客様目線に立っているからですね。

木村 単純に利益率の大小ではなく、あくまでもお客様が付加価値をどのように評価してくださるのかが問題ではないでしょうか。評価してくださるお客様がいるのなら、提供している価値が認められていることになる。問題は、その価値がブレないようにすること、つまり価値自体を継続的に提供することです。

(早川)木村屋さんのあんぱんの価格は、時代とともにどのように変わってきたのでしょうか。

木村 プライシングについては代々、当社なりの決め方があります。それは電車の初乗り料金の価格です。嗜好品のあんぱんをお客様の身近な存在として受け止めていただくには、初乗り料金ぐらいが手頃だと。今だと160円ですね。

山本 少し伺いたいのですが、あんぱんは嗜好品なのでしょうか。我々が扱っている海苔も、嗜好品なのかデイリーなのかという議論があるので、木村さんのお考えをお聞かせください。

木村 主食か嗜好品かと問われるなら、あんぱんは嗜好品でしょう。明治の初め、創業者がパン作りを始めた頃、日本人の主食はご飯でした。そこにパンをどう持ち込むのかと考えたときに、主食としてパンを売り込んだのでは、どうしてもご飯には勝てない。だから、おそらくは苦肉の策としておやつ、嗜好品としてポジショニングし、だから「あん」を入れたあんぱんを作ったのです。

山本 なるほど。海苔はデイリーに食べるものから、超高級ギフトの嗜好品まで原価レベルでみれば100倍ぐらいの差があります。我々の販売チャネルでいえば、百貨店で売れるのがもっとも原価率が高い。ただし百貨店では贈答用としてではなく、お土産用として売れているのが現状です。今後、海苔をどのように位置づけていくのかは重要な課題となっているのです。

(早川)そのあたりのマーケティングについては、どのように学んできたのでしょうか。

山本 私は最初、銀行に勤めていたので基本的な勉強は、その時代にやらせてもらいました。経営者となってからは、若手経営者の会などで諸先輩から学んでいます。

木村 私は、それこそ早川さんとMBA仲間で勉強させていただいています。理論を学ぶことで、これまでなかった視点を持てる。ただし、経営者としては、身につけた知識をいかに実践に活かしていけるかが勝負だと考えています。

(早川)これだけ歴史のある企業を引き継いでいながら、MBAを取るために学ぶ。その姿勢に、老舗企業を受け継ぐものの姿勢と、そうした姿勢が自然に身についてしまう幼い頃からの環境の力を感じます。これが老舗企業の何よりの秘密なのかもしれませんね。


リーダーズオンライン倶楽部

経営者の皆様が日頃悩まれている、事業承継、M&A支援、資金調達、営業支援、IPO支援など企業の成長に必要な多方面からのサポートの実施しています。 さらには、老舗企業から経営のノウハウを学び、100年先も続く企業となるための基盤づくりを支援しています。 また、経済界のみならず、日本の文化伝統、スポーツ界など様々な業界との交流を通じ、経営者の皆様の視野を広げられる場としても好評いただいています。