新型コロナワクチンに学会が提言
日本感染症学会ワクチン委員会は来年(2021年)、日本での接種開始が想定されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、接種の参考として現時点での有効性と安全性に関する報告を「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」(以下、提言)にまとめ、昨日(12月28日)同学会の公式サイトで公表した。予防接種法の改正によりワクチン接種の努力義務を課せられることから、提言は同学会の会員に加えて国民を対象に策定された。
日本も独自のワクチン開発が進行中
提言に盛り込まれた内容は5項目
- 現在の開発状況
- ワクチンの作用機序
- ワクチンの有効性
- ワクチンの安全性
- 国内での接種の方向性
2020年12月18日、ファイザーはCOVID-19に対するmRNAワクチンの申請を行った。日本は米・ファイザー、米・モデルナ、英・アストラゼネカとワクチンの供給を受ける契約または基本合意を締結しているが、日本国内でも独自のワクチン開発が進んでいる。
開発中のCOVID-19ワクチンは、緊急性が求められるパンデミックワクチンとして有用なmRNA、DNA などの核酸が用いた不活化ワクチンまたはウイルスベクターワクチンが多く、迅速に実用化できる利点がある。
ファイザーおよびモデルナのワクチンはいずれもmRNAワクチンで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトの細胞に侵入する際、ウイルス粒子表面のスパイク蛋白質がヒト細胞上のアンジオテンシン転換酵素(ACE)2と結合する必要があるが、両社のワクチンはスパイク蛋白質の遺伝子全体を用いている。mRNAワクチンはHIV感染症やさまざまながん種に対し、臨床試験が実施されてきたものの、ヒトで実用化されるのはCOVID-19が初めてとなる。 一方、アストラゼネカのワクチンはチンパンジーのアデノウイルスを用いたウイルスベクターワクチンで、ベクターにSARS-CoV-2のスパイク蛋白質の遺伝子を組み込んで、スパイク蛋白質に対し免疫を誘導する。
臨床試験で今後の課題「重症化予防効果の評価」も浮上
ファイザーおよびモデルナのmRNAワクチン第Ⅲ相臨床試験の中間報告によると、有効率は90%以上であったという(N Engl J Med 2020年12月10日オンライン版)。同学会は、米食品医薬品局(FDA)がCOVID-19ワクチンの承認条件として提示した有効率50%以上、最低でも30%以上の基準をはるかに上回る有効率を評価するとともに、ワクチンの有効率90%という結果について90%の人に有効ということではなく、対照群に比べ接種群の発症率が90%少なかったという結果であることへの注意を促した。
また同試験の結果について、重症例数が限られており重症化予防効果に対する評価は今後の課題であること、75歳以上の例数が十分でなく基礎疾患を有する患者への有効性評価においても同様であるとしている。
mRNAワクチンの安全性について同学会によると、mRNAは分解されやすく長期間細胞内に残存したり、ヒトの染色体に組み込まれたりすることがないため、安全性は比較的高いと予想されるという。その一方で、mRNAワクチンを将来的に繰り返し接種する場合の安全性や、mRNAの分解を防ぐために脂質でできた脂質ナノ粒子(LNP)で包んでカプセル化していることからLNPに含まれる脂質が長期の安全性に及ぼす影響は明らかでないとしている。
同学会は、臨床試験における1回目および2回目における接種後の有害事象の頻度を年齢別に表にまとめている。ファイザーのmRNAワクチンは、局所反応として日常生活に支障が出る中等度以上の疼痛が報告されており、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンでも若年者層で疼痛の頻度が高くなる。全身症状についてもmRNAワクチンでは高頻度に見られるが、対照群においても倦怠感、頭痛、寒気、嘔気・嘔吐、筋肉痛がある程度見られることに注意が必要だという。
なお重篤な有害事象は、ファイザーの臨床試験では接種群で0.6%、対照群で0.5%、モデルナの臨床試験でも両群でそれぞれ1%認められている(Vaccine 2020; 38:101-106)。
高齢者の年齢基準として65歳は国民に分かりやすい
厚生労働省は2020年10月9日、COVID-19ワクチンの優先接種対象者として、医療関係者、高齢者、基礎疾患を有する者に決定した。その後、高齢者などが入所・居住する社会福祉施設で利用者に直接接する職員も含める方向で協議されている。
優先接種対象となる高齢者の年齢基準として、同学会は65歳が国民にとって分かりやすいとの認識を示した。さらに今後の解析で60歳代前半の致命率が60歳代後半と同等であると確認した場合は、基準を60歳とすることもありうるとしている。また同じ高齢者でも介護福祉施設の入所者、精神科病棟の入院患者は集団感染のリスクが高く、優先順位を上げることが望ましいと指摘した。
重症化の危険因子がさまざま報告されているが、そのうちBMI 30以上の肥満は特に60歳未満での重症化と関連性が強く(Eur J Med Res 2020; 25: 64)、ワクチン接種が強く勧められる。
今回、小児を対象としたCOVID-19ワクチンの臨床試験は実施されておらず、安全性が不明なため、接種対象に含めることが難しい。ただし慢性疾患を有する小児患者は重症化リスクが高く、今後国内外の臨床試験で小児へのワクチンの安全性が確認された場合は再検討が求められる。
医療関係者への接種は人数を限定し段階的に
12月2日に可決された予防接種法改正により、COVID-19ワクチンの接種類型は臨時接種となり、国が接種を勧奨するとともに、国民には努力義務が課せられることになった。しかしワクチンの有効性および安全性が十分に確認できない場合は、努力義務を適用しない規定が盛り込まれた。
接種体制について、前述の臨床試験での有害事象発生率を踏まえると、所属する医療機関で行うと見られる医療関係者へのワクチン接種は、接種後数日間出勤できない職員が一定の割合で見られるため、同学会は「接種人数を限定して段階的に実施するなど配慮が必要」との見方を示した。
国民においては最近、市町村設置会場での集団接種は実施されていないため、実施体制を確認するとともに、特にアナフィラキシーへの緊急対応ができる薬剤の準備、医療体制を整備する必要性を挙げた。
既に一般報道でもなされているように、mRNAはRNA分解酵素で壊れやすいことから、ファイザーのmRNAワクチンの保管には-60~80℃を保てる冷凍庫が必要で、輸送にもドライアイスを用いる。モデルナのmRNAワクチンは長期保管に-15~25℃の冷凍庫が必要となる。一方、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは、既存のワクチンと同様に冷蔵で保管する。
提言は、COVID-19ワクチンの国内外の状況の変化に伴い、随時更新する予定。
(田上玲子)