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資産税コンサル 一生道半ば――。タクトコンサルティング会長・本郷尚氏に聞く 事業の選択と承継


事業の選択と承継は、経営者なら誰もが行き当たる問題だ。ましてや、会社という組織にはたくさんの人が関わっている。何かのきっかけで、関係者の感情のもつれが思わぬトラブルに発展することも少なくない。
東京駅からほど近いオフィス街に事務所を構えるタクトコンサルティングは、そんな難局に立たされた個人や経営者をサポートする、資産税専門のコンサルティング・ファームだ。
来る事業承継に備えて、経営者が準備しておくべきことは何なのか。税理士から同社を創業し、現在は会長をつとめる本郷尚(ほんごう・たかし)氏に聞いてみた。
(聞き手・仙石実・公認会計士、税理士/構成・株式会社Tokyo Edit 大住奈保子)

税理士を目指したのは高級車に乗るため!?

(仙石)本日はありがとうございます。まずは税理士を目指されたきっかけからお教えいただけますでしょうか。

(本郷)最初のきっかけは、父親の勧めでした。高校生になったばかりの頃、突然親戚が営む会計事務所に連れて行かれたんです。そのときは特に何も感じませんでしたが、親戚の乗っていた車がとても格好良くて。「いい車だなあ。こういう車に乗れるなら、税理士になってもいいかな」なんて考えていたこともたしかです。不純な動機ですよね(笑)。

(仙石)そうだったんですね(笑)。高校卒業後は、どのような進路に進まれたのですか。

(本郷)大学に入学する頃にはもう「税理士を目指すんだ」という気持ちになっていましたから、経済学部に進みました。専門学校に入学して簿記の勉強もはじめ、3年生になる頃には1級に合格。大学卒業の翌年には、すでに税理士試験の5科目に合格していました。

当時は、生活のほとんどが受験勉強のような感じでした。何時間勉強したのかも、よく覚えていないくらいです(笑)。でもそのおかげで、税理士としての仕事人生のスタートを順調に切れたのだと思います。

(仙石)それはすばらしく順調なスタートですね。御社では、採用試験のときにも受験勉強のときのことを質問されるのだとか。

(本郷)そうなんです。採用試験では、1日何時間くらいを受験勉強に費やしたかをお聞きしています。実はこの質問は、大学卒業後に入所した会計事務所の採用試験で、私自身が代表の先生から受けたものなんです。

私はそのとき「1日10時間くらいやりました」とお答えしました。すると先生は「そうしたら、これからの仕事にはそれ以上の気力で取り組みなさい」と。入社してからはそのお言葉どおり、猪突猛進に仕事に取り組みましたね。

業務に必要な資格をすでに取得していたこともあり、私は事務所が抱える案件のなかでも特に重要なものを担当させていただきました。
当時はまだ、パソコンも電卓もありません。大量の書類を見ながら必死にそろばんをはじいているうちに、夜が更けていることもよくありました。しかし、眠気や疲れよりも「早くプロになりたい」という気持ちが勝ち、苦にはなりませんでした。

(仙石)それは大変でしたね。資産税コンサルのお仕事には、その頃から携わっておられたのでしょうか。

(本郷)いえ、その頃はまだ「資産税コンサル」という名目では仕事をしておりませんでしたが、それにつながる業務には携わっておりました。代表の先生が不動産鑑定士の資格をお持ちでしたので、事務所には不動産鑑定の仕事もたくさん来ていたんですね。

ただ、実務にあたる私は不動産鑑定士の資格も持っていなければ、鑑定をしたこともありません。とりあえず宅地建物取引主任者(当時)の資格を急いで取得して、鑑定の仕事をはじめました。
税務署で路線価や固定資産税の評価の手伝いをしたり、資料をまとめたり。今でこそWeb上のデータベースがありますが、当時はそれもありませんでした。取引事例の資料を見ながら、ひとつひとつ作っていったんです。

本当に大変でしたが、税理士でありながら不動産鑑定にも詳しいという貴重な人材になれましたし、価値ある人脈も築けました。このときの経験があったからこそ今の私があると思っています。

悩みの末見つけた「資産税コンサル」の道


(仙石)その後独立されますが、きっかけになった出来事などはありましたか。

(本郷)一番大きなお客様が急逝されるというショッキングな出来事が起こったのですが、その経験もきっかけのひとつだったかもしれません。当時は所得税の税率が70%、法人税の税率は42~43%という時代です。準備が不十分だったため税金の額は膨大になり、相続争いも勃発。関係者の方々はカンカンにお怒りでした。

当時の私は24~25歳でした。そんな若造が、前代未聞のトラブルの渦の中に放り込まれるわけです。そりゃあ、大変でしたよね。
次期社長の協力もあり事態は収束しましたが、相続と資産税にまつわる事業の怖さと重要性をひしひしと感じました。そのときの思いがさめやらず、28歳のときに5年間勤めた会計事務所を退所し、独立したのです。

(仙石)そうだったんですね。やはり、その頃には「独立してもやっていける」という自信がおありだったのでしょうか。

(本郷)決して自信があったわけではありません。あるのは「私はやるんだ」という気持ちだけでした。でも、人生1回しかないんだから、やりたければやればいい。それでいいんじゃないでしょうか。

(仙石)たしかにそうですね。独立されてからは、どんな日々をお過ごしでしたか。

(本郷)独立後は業務のかたわら、TKCという団体でできた仲間と一緒に全国の名だたる事務所をめぐっていました。当時は「一流になるために、自分はどうしていけばいいのか」と考えていた頃でした。だから、いろいろな人に話を聞いて、そのヒントを見つけたかったんです。

見学に行ったのは、200~300軒の顧問先を持つ大規模な事務所でした。社員数は少なくとも50人、多いと100人という事務所もあり、素直に「すごいなあ」と思いました。この先生方のようになるのもいいな。でも、自分は本当にそれを望んでいるのだろうか。いやがおうにも真剣に考えさせられました。

(仙石)そこから最終的には「資産税に特化する」という道を選択されたわけですね。

(本郷)そのとおりです。その頃の私は、すでに資産税の業務に楽しさややりがいを感じるようになっていました。しかし、見学先の先生方にも仲間内にも、資産税に特化したいと考えている人はいませんでした。
「税金の申告」という観点では、資産税の仕事は1年に2~3件ほどあればいいと言われるほど、数が少ないものなんです。たしかにメインの事業に据えるには、心もとないですよね。

しかし「資産税」というくくりで見ると、状況は変わってきます。お客様のお悩みを受け止めながら複雑な問題を解決していく必要があり、到底「税金の申告をすれば終わり」とはいきません。おのずと1件あたりの扱い金額は大きくなりますし、取扱件数も増えてきます。

相続や事業承継が難しい局面になればなるほど、申告業務だけではおぼつかず、コンサルティングの力が必要になります。お客様が本当にお困りのときに力になるには、資産税コンサルという仕事が必要だ。私はいつしかそう考えるようになりました。その思いで資産税に特化した事務所を開業し、今に至っています。

引退を決める最善のタイミングは“腹八分目”

(仙石)経営者にとって、事業承継は避けられない課題かと思います。事業承継をうまく進めるために、注意すべきことはありますか。

(本郷)まずは、しかるべきときに引退を決めることです。経営者は仕事が好きな人がほとんどで、引退すべき時期にきっぱりと引退できる人は多くありません。しかし、バトンタッチしなければならない時期は必ず来ます。健康でまだ余力がある“腹八分目”のときに、落ち着いて決断するのがベストです。

次に、しっかりとした後継者を選ぶことです。会社の後継者選びは、想像以上に難しいものです。日本ではまだまだ、長男が自動的に次期社長になるケースが多いですが、それではほかの兄弟が納得しません。こうした関係者の感情のもつれが、相続や事業承継を難しくしているのです。

(仙石)後継者選びでは、どんなことに気をつければよいのでしょうか。

(本郷)外部にも目を向けることでしょうか。皮肉なもので、社長の個性が強ければ強いほど、身内にはリーダーシップのある人材が育ちにくくなります。そのため後継者選びでは、外部からの招へいも視野に入れるのが大切です。無理に身内から選ばず、本当に会社を継ぐにふさわしい能力を持った人を吟味しましょう。

(仙石)ありがとうございます。最後に、これから事業承継に取り組む経営者へのメッセージをお願いいたします。

(本郷)事業承継では、後継者のほかにも、決めなければならないことが山積です。争いごとやトラブルと無縁でいられるとは限りません。むしろ、起こらないほうがめずらしいくらいです。
そんな荒波を乗り越えていくために必要なのは、物事の本質を見極める目です。20年、30年先を見越して、今何が大事なのかを正しく判断できるかどうか。これが大切だと思います。

そしてやはり、お客様のために誠心誠意仕事し、お悩みを真剣に受け止める人間力。最後にものを言うのは、ここだと思いますね。この2つは磨いても磨いても終わりがなく、私も「一生道半ば」の精神で過ごしています。みなさんも心の片隅に留め、一流の経営者を目指してがんばってください。


<PROFILE>
税理士法人タクトコンサルティング
会長 本郷 尚(ほんごう・たかし)


大学在学中から税理士を目指し、大学を卒業した翌年に税理士試験5科目合格。国税局OBの税理士が営む個人会計事務所に入所。入所後、不動産関連の実務に多く携わり、5年間の修業を積み、28歳の時に独立開業を果たす。設立当初は横浜に事務所を構えたが、各種金融機関からの依頼が増加し、新橋へ事務所移転。新橋への移転と共に、資産税に業務特化を図る。その後、税理士法人設立のタイミングで丸の内にオフィス移転。各所にて非常に多数の執筆・講演を行い、日本における資産税の第一人者として、現役で活躍中。最新著書『資産税コンサル 一生道半ば』(清文社)も好評発売中。

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